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Side シスレイ 4

 シスレイは、勇者なんてあまり興味がなかった。

シスレイが好むのは、あくまで自分の魅力と奸智で他人を思うがままに操り、不幸に陥れ、泣いたり怒ったり破滅したりするのを眺めることだ。

 神のような力を持つ男のご機嫌をとって他人を陥れるのでは、楽しみ甲斐がなく、つまらない。

だから勇者なんて、いないほうがよかった。


 この世界を破滅させるドラゴンが生まれるなら、それはそれでかまわない。

右往左往し、悲観にくれる人々を見てみたいとも思ったし、その悲しみにつけこんで男に取り入り、その男の妻や恋人を更なる悲しみへ導くのも楽しそうではないか。


 シスレイは心の底からそう思っていたが、その意見が少数派であることも知っていた。

だから、勇者の召喚には反対しなかった。


 かわりに、この騒動に震えるか弱い女性に擬態し、勇者召喚のために集まった各国の要人をつまみ食いし、その妻との間を引き裂く遊びに熱中した。

 長年連れ添った王妃以外に側室のひとりもいなかった王をひとり食って、その国の要人たちを震撼させたり、身分違いだからとひそかに姫と恋人になっていた騎士もひとり食い、純真無垢な姫君を自殺に追い込んだ。


 お相手の姫は、その騎士とは軽いキスをする程度の中だったらしい。

シスレイとの淫らな行為に夢中の騎士を見た姫君の顔といったら、見ものだった。

騎士は、姫君に見られていることに気づきながらも、シスレイをむさぼることをやめられなかった。

言い訳の言葉ひとつ口にせず、シスレイに夢中の騎士を見て、姫君は泣きながらその場を去り、そのまま自分に用意された部屋の窓から飛び降りた。

即死だったらしい。

 姫の自殺を聞いたその騎士は、その時自分がシスレイと寝ていたことが姫の父である王たちにも知られ、また姫の自殺の原因がそれであることさえうすうす察知され、将来を悲観して、腹を切って死んだという。


 シスレイにそれを教えてくれたのは、50年の長きにわたって夫である王のただ一人の妻として愛されてきたのに、さきほどその愛をシスレイによって汚されたとある国の王妃だった。


 この国に到着した際は、長年王妃として尊重され愛されて来た王妃として、威厳と寛容を感じさせる老齢であっても美しさを感じさせる女性だった彼女は、今や悲しみと怒りでやつれ、怨嗟の顔でシスレイに告げた。


「あなたはきっと、誰よりも悲惨な死に方をするでしょうよ」


「あなたみたいな、男から見捨てれた女にうらまれて? それとも、わたしのためにすべてを失った男にうらまれてかしら? どちらにしても、それも楽しいかもしれませんわね」


 王妃の言葉は、シスレイには楽しい提案のように聞こえた。

きっと自分を殺せば、その相手はさらになにかを失い、絶望するだろう。

 人々はシスレイの話でもちきりになり、シスレイをとがめる。

けれどその批判は、シスレイが他人を蹴落としたことの証左であり、シスレイにとっては誉だ。


「王妃様、あなたがわたしを殺してみますか? きっと王を寝取られた王妃として、巷間に広まりましてよ」


 王妃のまなざしは、さらに憎しみに染まった。

それを見てシスレイは、できれば華々しく、人が大勢集まる中で殺されたいなと思った。

きっと自分は、悪魔のような女として話題をさらい、男たちはそれでもシスレイの美貌と妖艶さをひそかに思わずにはいられないだろう、と。



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