Side シスレイ 2
カミーユは、小蠅のような女だった。
どこにでもいる、自分が持つものに満足せず、それを磨かず、不平不満ばかり言う生真面目ぶった女。
それが、シスレイから見たカミーユだった。
カミーユは、女らしい外見と、それで男から愛されることを切望しているようだった。
にもかかわらず、男並みに背が高いことばかりを気にして、長年うじうじしていたという。
そのくせ、なにを思ったのか騎士という職業につき、体を鍛え上げるという、自分の望みとは真逆の努力をしていた。
カミーユは、愚かだ。
あるいは、なまけものだ、とシスレイは思う。
女官たちは、カミーユが真面目で努力家だなどとほめそやすが、自分が望んでいるものを手に入れるための努力ではない努力などしてどうなるのか。
結果として、騎士としては認められたカミーユは、すこしも幸せそうではなかった。
カミーユの親が金で買ったというクズのような男に固執して、愛されもせず、不幸そうな顔をしている。
実際のところ、あの女の本当の望みは、報われない自分を嘆きながら、のほほんと生きることだったのではないかとも思わなくもない。
カミーユは、顔のつくりはそう悪くなかった。
もえあがるような赤い髪も、もっと手をかければ美しく人目をひいただろう。
あの長い手足も、騎士のように鍛えるのではなく、踊り子のように鍛え、なんだったら蠱惑的な踊りでも身に着ければ、彼女を女神のようにたたえる男だって、両の手で数えるより多くいただろう。
少なくともシスレイは、カミーユの容姿に生まれついても、今の自分と同じほどに、男の視線を集める自信があった。
カミーユには、人のいい両親もいたのだ。
飾り立てるお金も、たっぷりあったのに。
もっとも、あの両親はだめね、とシスレイは思う。
自分たちの見たいものしか見ないし、世界が狭い。
カミーユを美しくさせるにはどうすればいいのかなんて考えず、自分たちの思う美の範囲からずれているカミーユに女性としての魅力はないのだと、さも優し気な顔をして、彼女に教え込んだ。
カミーユが自分の望みを叶えるためとは異なる努力をしてもとめもせず、推奨し、あのくだらない婚約者もつけて、カミーユが男から愛される努力をすることも、愛される機会を得ることもさせなかった。
もっとも、そんな親の言うことを唯々諾々と聞くだけのカミーユには、お似合いの親なのだろうけど。
だってカミーユも、真剣に自分の幸福を考えて行動するのではなく、親から与えられるものを止められるのが怖くて、親の価値観に従っていたのだろうから。
シスレイとは、なんて違うのだろう。
自分の望みを知り、それのために努力してきたシスレイとは。
シスレイは、いつも自分の望みを知っている。
そして、そのために努力している。
姫様を堕落させるのを邪魔するカミーユが嫌いだし、邪魔だと思ったら、すぐにカミーユのことを調べ、婚約者を寝取った。
カミーユに苦しい思いをさせるため、仕事のことばかり考えさせないため、行動したのだ。
こういうのこそ、正しい努力というものだ。
おかげでカミーユは傷つき、騎士の仕事を辞めようとまでしていた。




