Side 勇者 6
は、ああああああああああああああああああ?
お前、まだいたのかよ!
俺とツガイのラブラブな初めの一歩を邪魔してくるんじゃねーよ!!
「アンリエール!」
遠くから、さっきのおじさんが叫んでいる。
いや、叫ぶ前に、これを回収してくれよ。
白髪のおじさんが慌てて、別の男たちに指示して、女の子をとらえようとする。
けど女の子は、俺の腕をぎゅうぎゅうにつかんで、抵抗する。
そんで、俺のツガイを睨み付けて、言った。
「その女……、アッシュバーン男爵令嬢のカミーユは、今年28歳にもなるいき遅れですわ。身長も、並の男よりおおきく、体つきもごつごつして醜い。女性としては最底辺の、女とも呼べないような女ですわ。その女を、このわたくしを差し置いて選ぶとおっしゃるの?」
「え、そりゃ、まぁ」
なんでか自信満々な顔で、女の子が言う。
たしか「どや顔」ってやつだ。
知ってる。
けど、この子がなにを言いたいのかはわからない。
女の子の剣幕に驚きながら、簡単な事実を確認する。
「俺も28歳で、同じ年です。これはきっと運命……! やっぱり俺たちは、結ばれる運命だと思うんですよ。彼女の身長が高いのも、彼女の美しさをより引き立てているよな。と言っても、俺のよりは小さいけど。健康的で、のびやかで、これがこの世の最高の美しさ。ベストオブビューティ! 顔も、もちろん美しくもかわいいし。美しさの権化。まさに女神だよね?」
女性として最底辺、か。
それって、女の子のことだよな。
途中、なんかおかしい言葉があった気がするけど、気のせいだろ。
なんかこの女の子、精神的に不安定っぽいし。
未開人だからなぁ……、精神的に未熟な人間も多いのかもな。
そういう人間は、脈絡もなく怒ったり、暴れたりするんだよな。
そのうえ、見た目もこんなんじゃな。
かわいそうに。
「女神? カミーユが? ありえないわ! どう見ても、カミーユは美しさとは無縁でしょう?」
「は?」
いま、この子、ツガイの悪口を言った?
美しさとは無縁って。
いやいやいや。
どう見ても、美しさの権化でしょ。
一目瞭然じゃん。
「無縁どころか、彼女は美しさを具現化したかのようじゃないか」
やばい。この女の子、本格的に目か頭がおかしいみたいだ。
こういう人間は、かかわらないほうがいい。
けど、ツガイの悪口を言われたら、聞き流すわけにはいかない。
「……君のような見た目なら、悲しくなる気持ちはわかるけど。現実は受け入れたほうが、前に進みやすいよ。どう見ても、君より彼女のほうが綺麗だし、かわいい」
小さな子に厳しすぎるかもしれないけど、この世に比類なき美人をくさすなんて、周囲の人間にも馬鹿にされるだろう。
誰かがはやくに注意してあげたほうがいいと思う。
「嘘よ! カミーユが綺麗だなんて」
まだ言うんだ。
もうこの女の子、撤去してよ。
女の子が暴れるから、この子を取り押さえに来た男たちも、こわごわ腕に触るくらいだ。
女の子を押さえつけたり、別のところに連れていったりしないんだよな。
ほんとさぁ、さっきからこの子と話が通じなさ過ぎて、笑えない。
やれやれ。
こんな子にかまけてないで、ツガイを口説きたいんだが。
ここは一発、誰にでもわかるように懇切丁寧に説明してやるか。
「どうみても君より彼女のほうが綺麗で、かわいい。内面はまだよくわからないけど、とつぜん他人に知人のことをあしざまに言う君より、ずっと美しいと思う」




