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警察不信  作者: 山本正純
Episode 5 銀の弾丸
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Side.097 侵入者の行方 An invader's whereabouts

 午後9時50分。鬼頭とウリエルは東京クラウドホテルの前にいた。ウリエルは突然鬼頭にワルサーを渡すと玄関とは逆の方向に背を向けた。

「とりあえず私は裏口から潜入しますから」

「そういえば俺はおとりだったな。邪魔されるよりはましだ」

 

 ウリエルからワルサーを受け取ると彼はまるでイノシシのように玄関を突破した。

 玄関には大量の刑事たちが張り込んでいる。

刑事は鬼頭がホテルに現れたことを無線で千間刑事部長に連絡する。報告を待つことを知らない鬼頭は刑事の胸倉をつかみ、ボールを投げるように投げ飛ばした。

 

 目の前で連続強盗人犯の殺人を目撃した刑事たちは絶望する。鬼頭が現れれば、この場にいる人間は全員死亡する。だが一人だけ拳銃を構え連続強盗殺人犯に立ち向かおうとした刑事がいた。その刑事は仲間に克を入れる。

「諦めちゃダメだ。俺たちは警察官だろう。俺たちが諦めたら、また犠牲者が増えるんだ」

 

 鬼頭は壁に掛けられている鳩時計を見て舌打ちをする。

「くそ。タイムオーバーか」

 

 ただいまの時刻は午後10時。10時以降は殺害を自粛しなければならない。鬼頭が殺していいのは5人とラグエルは言っていた。

 保険として4人は残しておかなければならないと考えた鬼頭は生き残っている多数の警察官を無視して、さっそうとホテル内に侵入していく。


 絶対に殺されると思った刑事たちは拍子抜けした。恐怖を感じ刑事たちの体は動かない。そのため彼を追跡することはできなかった。先ほど連続強盗殺人犯に立ち向かおうとした刑事は改めて千間刑事部長に無線で連絡する。

「千間刑事部長。鬼頭がホテル内に侵入しました。フロントエリアの殉職者はたったの一人です」


 ホテル内を走り回っている鬼頭の前に拳銃を構えた刑事が数十人現れた。


 完全に鬼頭は刑事たちに囲まれている。その内の何人かの刑事の体は震えている。連続強盗殺人犯という怪物を相手にするのだから身震いくらいはして当たり前だろう。

 鬼頭は懐に閉まっていたワルサーを取り出す。

(残りの銃弾は後6発。この拳銃に装弾されている弾が切れれば拳銃はもう使えない)

仕方なく鬼頭は威嚇射撃として刑事たちが立っている床に向かって発砲する。その後で彼は囲んでいる刑事たちに銃口を見せる。

「道を開けろ。開けないと撃ち殺す」

 

 鬼頭はこのような脅しという手段が嫌いだ。いつもの彼ならこのような場合囲んでいる刑事たちを皆殺しにして正面突破するだろう。   

だが今回はラグエルから殺害許可が降りていない。彼は約束だけは守ることにしている。そのため午後10時以降は誰も殺してはならないという約束を守る必要があった。

「誰も殺さないと吐き気がする」

 強盗殺人事件の常習犯である鬼頭にとってこの約束は苦痛以外の何物でもない。鬼頭が感じている吐き気は誰でもいいから人を殺したいという禁断症状だろう。彼はその禁断症状を感じながらゴールへと向かう。

 

 パーティー会場は緊急体制に入っているが、なかなか鬼頭はパーティー会場に現れない。

 そのことに千間刑事部長は苛立っている。


 その頃鬼頭はラジエルがいる13階の客室に隠れていた。その部屋にはガムテープで拘束されている本物の司会者の山田が仰向けに倒れている。

「まさか殺してはいないだろうな」

 鬼頭は珍しく心配そうな声を出す。それに対してラジエルは微笑む。

「大丈夫。気絶しているだけだから。だって連続強盗殺人犯の人質だと思ったらショック死するでしょう」

「それもそうだ。それにしてもよく考え付いたな。午後10時の襲撃は警察をあおるための物。警察は今頃パニックになっているころだろうぜ。連続強盗殺人犯が消えたんだからな」

 ラジエルは首を傾げる。

「そういえば、ウリエルはどうしました」

「さあ。知らないな。あいつは裏口から侵入するって言っていたから別行動だ。警察に捕まるようなミスはしないだろうぜ」

「いいえ。その考えは甘いですよ。だって彼女はこの1か月間不幸の連続ですから」


 ウリエルは不幸の連続だった。鬼頭を匿っていることがバレかけた。警視庁の刑事に目をつけられて職務質問を受けた。さらに小早川せつなの正体が警察にバレかけた。極めつけはバスジャック事件の重要参考人として神奈川県警の事情聴取を受けたことだろう。これだけのフラグがあれば、今夜も彼女はミスを犯してピンチになるかもしれない。ラジエルは心配しているのだ。

 出歩くわけにはいかないため、ラジエルはウリエルを信じるしかなかった。

 


 その頃ウリエルは東京クラウドホテル31階にあるカジノにいた。そこで彼女はある人物を探している。辺りを見渡してもその人物はいなかった。

(やっぱりいるはずがないよね)

 彼女が今探している人物はラグエル。パーティーの招待状を持っていない彼女はここでパーティー会場内にいるラグエルと接触することにしていた。


 やはり連続強盗殺人犯の奇襲のみならず、殺人事件が発生したことが作戦に支障を及ぼしているのだろう。

 パーティー会場内の様子を映し出されていたモニターは切ってあるため、様子を伺うことはできない。ここはメールでラグエルと連絡するしかないと彼女は思った。


 そんな彼女の姿を弘中洋貴は見ていた。彼は失笑しながら、スマホを取り出す。

(やっとあの娘に会えた)

 シャッター音がしないカメラアプリを起動させると、彼はウリエルを盗撮した。

 

 写真がぼけていないこと確認した弘中洋貴は小さくガッツポーズをとった。

「問題は房栄か」


 弘中洋貴はパーティー会場内にいる浅野房栄を心配している。事件当時パーティー会場内にいなかった弘中洋貴自身は殺人事件の容疑者として浮上しなかった。殺害方法が毒殺だから、パーティー会場内にいないと殺害は不可能。事件当時カジノにいた50人は容疑者ではないが、パーティー会場内には戻されることはない。連続強盗殺人犯がホテル内に侵入したため、安全に配慮したのだろう。事件当時カジノにいた50人と一緒に鬼頭が会場内に侵入すれば、政府関係者300名以上が全員彼に殺害される。


 それを阻止するためには、パーティー参加者を全員避難させるしかないが、それをすれば殺人犯に証拠を消されてしまうかもしれない。

 

 この板挟みに警察は苦しんでいることだろう。

 運がよかった弘中洋貴だが、彼はルーレットで大損をしている。容疑者にはならなかったが、大金を消失するという事実は変わらない。本当に運がある人物は事件当時カジノにいて、ルーレットで大金を手に入れた人物だろうと思い、弘中洋貴はため息を吐いた。


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