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警察不信  作者: 山本正純
Episode 5 銀の弾丸
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Side.094 犯罪心理学者殺人事件 Criminal psychologist murder case

 ウリエルは転がっている床に携帯電話を拾う。その後で感電対策の衣服を脱いだ。

 スタンガンを仕舞うと彼女はトイレから出る。トイレの前で彼女は鴉に連絡した。

「鴉さん。4階の男子トイレに来て。生き残った鼠を捕まえたから」

『トイレということは久しぶりにあの大技を使ったのですか』

「はい。雷の辞書です」


 雷の辞書。この技は強力なスタンガン使いでなくては使えない奥義だ。まず壁越しに一文字をスタンガンで書く。すると強力な磁力により携帯電話は浮く。携帯電話が浮いたら第二段階に移る。同じようにスタンガンで大文字を壁越しに書く。電流は壁全体に流れ、隠れている人間が感電して気絶する。

この技の利点は隠れている人間を一度に大量に気絶させることができることだ。密林のような場所では使えないと多くの人々は思うだろう。だがそのような時でも別の文字を書けばこの技は使えるのだ。それこそが雷の辞書と呼ばれる由縁である。

 完全無欠だと思われるこの技にも欠点はある。侵入者が携帯電話や金品を持っていないと使えないことだ。一文字を書かなければ使えるかもしれないが、闇雲に電流を流すことになるため、電気切れになりやすくなる。電気切れをなくすためにも、一文字から大文字というコンボにしなければ、使う意味はないとウリエルは考えている。

 もう一つの欠点は、とんでもないくらいの大技であるため、プロが使っても確実に感電死することだ。スタンガン使いのウリエルでさえも、組織が開発した感電対策アイテムがなければ確実に感電死しただろう。この技事態が自殺行為と呼ばれるくらい危険が技だ。


 ウリエルが警備をしながらレミエルに電話する。

「レミエル。侵入者がいました。侵入者は雷の辞書で気絶させた後赤い鴉さんが外に運んでいます。侵入者の身元は警視庁の月影管理官」

『着信履歴は確認したか。もしかしたらこのビルの中に他にも刑事が隠れているかもしれないだろう』

「確認はしましたが、履歴は携帯電話に登録されていない番号であるため、身元は分かりません」

『分かった。刑事が隠れているかもしれないとハニエルに伝えろ』

 命令を受けたウリエルは首を傾げる。

「そういえば、あなたはいつから実行部隊のリーダーになったのですか」

『知るか。ラグエルかガブリエルにでも聞け』

 電話は切れた。レミエルを怒らせたと思いつつ彼女は警備を再開する。


 それから1分後一人の男が4階の男子トイレにやってきた。この男は感電対策グッズを全身に身に着けて顔を隠している。

 まだ電流がトイレ内を流れているからこの男はそのような恰好をしているのだ。

 男は機械を使ってトイレのドアを開ける。そこではスーツ姿の男性が洋式便器に座った状態で気絶している。男は気絶している男を担ぎトイレの外へと出て行った。

 


 午後9時30分。ようやくパーティーの主役である大工健一郎がパーティー会場に到着した。司会者の山田は大工健一郎到着を合図にマイクを持つ。

「本日の主役大工健一郎さんが到着されました。それではケーキと花束を贈呈します」

 

 大工健一郎は檀上に上がり花束を受け取った。そのまま彼は記者会見を始める。

「2005年7月私大工健一郎は衆議院議員を引退しました。それから7年私は政治コメンテーターとしてメディアで活躍してきました。50歳の誕生日を機に政治家として復帰します。次の衆議院議員選挙に出馬することをお約束します」

 その爆弾発言を聞き新聞記者たちはカメラで大工健三郎の写真を撮影する。眩しいくらいのフラッシュがパーティー会場内を包み込んだ。

 そんな光景を山本尊は快く思わなかった。

「機会をうかがって政治家に復帰するとは考えていたが、それが今だったとは」


 山本尊はワイングラスを持ち、一口赤ワインを飲む。その次の瞬間。山本尊は叫んだ。

 インタビューをしようとしているマスコミや300人のパーティー参加者は突然の叫び声に注目する。

 山本尊は胸を押さえて立っている。彼の目は虚ろだった。彼はそのままうつ伏せに倒れた。


 大野達郎は倒れた山本尊の脈を測る。もう脈はない。その後で彼は山本尊の顔を観察する。唇は青紫に変色している。顔の肌は青白い。さらに口からはアーモンド臭。

「間違いなく青酸カリによる毒殺です」


 容疑者は300人以上。自分の目の前で殺人事件を起こした犯人を大野は許さない。

 そんな大野の前に喜田参事官と赤城警部と海原警部と八雲警部の4人が現れた。

「千間刑事部長はこの殺人事件の捜査には参加しない。鑑識は呼ぶが、捜査員の応援は要請しない。つまりこの殺人事件の捜査は現在パーティー会場内にいる警察官で行う。それが上層部の判断です」


 上層部の判断に大野は納得しない。

「間違っていませんか。容疑者は300人以上いるんです。少数精鋭で犯人を逮捕なんてできるはずがないでしょう」


「このホテル内を警備している捜査員を殺人事件の捜査に参加させるわけにはいかないのです。捜査員が殺人事件の捜査に参加すればするほど警備は手薄になるでしょう。上層部は退屈な天使たちの動向に神経を集中しています。警備中の捜査員を減らしてでも殺人事件の捜査員を確保したから、テロを止めることができなかったということだけは避けなければなりません。まあ警察庁の榊原刑事局長が群馬県警と島根県警と北海道警に赤城警部と八雲警部と海原警部を捜査に参加してもいいかという許可を貰っただけでもありがたいでしょう」


 確かにありがたいが、捜査員が少なすぎる。現在パーティー会場内にいる警察官は大野たちを含めて10人。容疑者を特定するだけでも一苦労だろう。


 こうして300人以上の容疑者を相手にした殺人事件の捜査が始まった。


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