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警察不信  作者: 山本正純
Episode 5 銀の弾丸
92/106

Side.092 再会 Reunion

 午後6時30分。トイレに行くために大工健一郎生誕五十年記念パーティー会場から抜け出した大野達郎は多くのマスコミ関係者たちが集まっていることを知った。テロリストの襲撃にマスコミ関係者を巻き込むわけにはいかないと思った大野はマスコミ関係者たちに警告する。


「このホテルを退屈な天使たちが襲撃するかもしれません。犠牲者を出さないためにもマスコミ関係者はホテルから出てください」

 

 刑事の警告を聞きマスコミ関係者たちは抗議する。

「民衆は真実が知りたいんだ。今夜このホテルで何が起きたのかが。それを伝えるのはマスコミの仕事。だから逃げるわけにはいかないな」


 一人の新聞記者の言葉に多くのマスコミ関係者は賛同する。大野は呆れてパーティー会場に戻った。



 パーティー会場内に戻ると榊原刑事局長と酒井衆議院議員と井伊尚政法務大臣と本田みゆきの四人が千間刑事部長を囲んでいる所が見えた。

「本当に退屈な天使たちは襲撃してこないのか」

 

 井伊尚政からの質問に千間はあっさりと答える。

「ホテル内に爆弾が仕掛けられているという報告は受けていない。さらにホテル内に不審者を入れないよう警備を厳重にしてある。マシンガンで無差別に乱射したとしても、パーティー会場に着く所で奴らは逮捕される。詳しい作戦は奴らの仲間がパーティー会場内にいるかもしれない現状では言えない」

 

 浅野たちがいるテーブルまで戻ろうとすると、怒鳴り声が聞こえた。

「誰がマスコミをホテル内に入れていいって言った」

 怒鳴った男は神部首相補佐官。パーティーの主催者らしき男は涙を流しながら頭を下げる。

「すみません。このホテルを退屈な天使たちが狙っているらしいから、ホテル内で総力取材をしたいとマスコミ関係者たちが申し出てきたので、大工健一郎さんが許可しました。午後9時30分から行われる記者会見の取材を必ずすることを条件にして」

「もういい。俺は部屋に戻る。確かこのホテルの客室はすべて予約されているそうじゃないか。その客室はパーティー参加者なら寝泊り可能。それなら高級スイートルームを楽しく寝させてもらう」


 主催者らしき男は首を横に振る。

「神部様。午後9時40分までは客室に行かないでください。大工健一郎さんはパーティー参加者300名に誕生日を祝ってほしいそうです。ケーキのろうそくを消すまでの辛抱です。それでも出たいのなら、カジノに行ってください。あそこのモニターでパーティーの模様の中継映像が流れるようになっているので」


 神部は舌打ちする。この場に週刊誌の記者がいれば、記事になりそうな出来事だと大野は思った。大野は主催者らしい男に話しかける。

「すみません。あなたは大工健一郎さんの秘書の方ですか」

「いいえ。私はパーティー主催者の大塚と申します。普段はこのホテルの支配人として働いているのですが、大工健一郎さんの秘書と連携して食事や客室やパーティー会場の手配までをやっています」


 大野は納得すると浅野がいるテーブルまで戻った。

 


 遅れてパーティー会場に現れた喜田参事官はパーティー会場の入り口の前で三人の男たちに呼び止められた。

「久しぶりですね。喜田参事官」

その三人は北海道警海原三郎警部と群馬県警赤城小太郎警部と島根県警の八雲圭一警部だ。

なぜこの三人がパーティーに出席しているのか。喜田は理解できなかった。

「なぜあなたたちがこのパーティーに参加しているのですか」

 三人の内の赤城は首を傾げながら質問に答える。

「それが分かりません。招待状を出したのは警察庁の榊原刑事局長なんですけど、なぜ地方の警部である私たちが招待されたのかが分かりません」

 その話を聞いて喜田は納得する。榊原刑事局長は気に入った人物をパーティーに招待することで有名だからだ。この三人は榊原刑事局長の目に留まるような偉業を出したのだろう。

「ところでなぜあなたたちは会場内に入らないのでしょうか。この場合は榊原刑事局長に挨拶をしなければならないでしょう」

 

 八雲は冷や汗を掻きながら答える。

「俺たちは地方の警察官。役職は捜査一課の係長だ。あのパーティー会場には300人の政府関係者がいるから、緊張が落ちつくまでこうやって入口前で深呼吸をやっている所だ」

 いろいろ大変だと喜田参事官は思った。

会場内に入ろうと思ったその時この三人は喜田参事官に続くようにパーティー会場内に入っていった。

 海原は歩きながら喜田に耳打ちで真実を伝える。

「先ほどの八雲警部の話は名目で、本当は上層部の知り合いを探していたのです。そうじゃないと、勇気が出なかったので」


 喜田は目を点にする。本当にこの三人は榊原刑事局長に招待されるような刑事なのか。喜田は疑った。赤城はウインクをしながら補足をする。

「危ない橋はみんなで渡れば怖くないって言うでしょう。三人で相談してこの作戦を考えました」

 喜田は海原に対して疑問を口にする。

「ところであなたたちは知り合いだったのですか」

 海原は頷く。

「はい。警察学校の同期ですよ。具体的に説明すると、私と赤城は栃木県の警察学校で、八雲さんは島根県の警察学校。警察学校対抗の射撃大会で知り合いました」

 赤城は海原の話に補足する。

「そういえば13年前まで栃木県警の捜査一課で相棒を組んで事件の捜査をしたこともあったな。海原は13年前の10月に海原は北海道警に転勤させられた。僕はその翌年に群馬県警に転勤しましたが」


 赤城たちから説明を受けていると、榊原刑事局長が視界に入った。三人の刑事たちは榊原刑事局長に向かいお辞儀をする。

 そんな彼らを見て喜田参事官はあることを思った。この三人がなぜ招待されたのかは分からないが、礼儀だけはちゃんとしていると。


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