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警察不信  作者: 山本正純
Episode 4  ミステリファンなら必ず分かる。だから安心してサスペンスに集中できるバスジャック事件
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Side.086 沈黙のバスジャック犯 The bus hijacking offense of silence

 第二のバスジャック犯が気絶したにも関わらず江角と東條は座らなかった。


 彼らは互いの顔を見合わせると最初にバスジャックをした犯人に声を掛ける。

「あなたは優しい人です。携帯電話を人質解放と同時に返却したのは、携帯電話がないと家族や友人などの関係者に連絡ができなくて困るから。あなたは人質の立場に立ってバスジャック事件を犯しました。では一つだけ質問します。あなたはなぜバスジャック事件を起こしたのですか。小早川せつなさんを呼ぶだけなら、バスジャックをしなくても、人質籠城事件でもよかったと思いますが」


 バスジャック犯の牧田は江角の推理を聞き頷く。

「ああ。本当は人質籠城事件を起こそうと思った。だがどこで人質籠城事件を起こせばいいのかが分からなかった。あの女は不本意な方法じゃないと現れない。全く関係ない人質を巻き込むような方法だ。その時にこのバスの特集を見た。その時に直感しまたさ。バスジャック事件をしようと。バスジャック事件の動機は小早川せつなを探し出すこと。その後は探偵さんの言うように爆弾で心中する」


 そこまでする必要があるのか。東條には分からなかった。

「なんであんたが小早川はんと心中するねん」

「あの女は俺を裏切った。そしてあの女は俺と大切な人を離れ離れにした。それが許せないんだ。あの女は昨今話題になっているテロ組織退屈な天使たちのメンバーだ。ブラッディティアに唯一感染した佐藤真実があいつらに監禁された。そしてあいつらはインターネットを使い全世界に監禁された彼女の姿を生中継映像で公開した。そんな悪趣味な映像が全世界中で話題になっている。彼女の安否が気になる俺も視聴者の一人だが、悪趣味な視聴者も許せないが、そんなことどうでもいい。あんなテロリストを野放しにしていると、佐藤真実のような犠牲者が出かねない。中々彼らを逮捕できない警察に変わって俺が裁くことにしたという訳だ。あのテロリストを殺すためにはこちらも死ぬ覚悟がないといけない。だから俺は小早川せつなと心中するんだ」


 江角は退屈な天使たちと聞き顔を曇らせる。動機を聞くまではただのバスジャック事件だと思っていた。だが彼の動機は退屈な天使たちの被害者の声そのものだ。

 

 神の悪戯なのか、江角は退屈な天使たちへの復讐という動機のバスジャック事件に巻き込まれた。その事件を彼女は解決しようとしている。

 

 彼女が退屈な天使たちのメンバーでなくても答えは決まっている。

「もう止めてください。そんなことしても今も退屈な天使たちに監禁されている佐藤真実さんは喜びません。たとえあなたが小早川さんと心中したとしても退屈な天使たちは滅びることはありません。つまり復讐のための心中なんて意味がないということですよ」

 

 東條は江角の言葉に続くように説得する。

「ほんまは佐藤真実はんの笑顔が見たいだけなんやろ。生中継で映された佐藤はんの顔は暗い表情やったんやろ。解放された後もあんたは佐藤はんに暗い表情をさせるんかい」

 

 牧田は大粒の涙を流す。

「自首するよ。信じてみてもいいかもしれないな。いつか彼らを逮捕する警察組織を」



 吉野智子は牧田誠の態度に納得していなかった。彼女は鞄に忍ばせたハンドガンを取り出し、銃口を牧田に向ける。

「だめよ。中途半端で終わっちゃ。どうせなら最後まで進めようよ。それが嫌なら私がこのバスジャック事件を再開させるから」

 

 その一言で江角は全てが分かった。

「なるほど。あなたもバスジャック犯でしたか」

「そうよ。私もバスジャック犯。偶然にもバスジャック犯の要求と私の動機が一致したから沈黙していたの。だから彼とは共犯ではない。ということでバスジャック事件を続行しますか」


 吉野智子は運転手に銃口を見せる。

「このまま東京スカイツリーに向かって」

 停車していたバスは走り出す。江角は吉野の一言を元に推理を話す。

「つまりあなたも小早川せつなさんを恨んでいるということですか」

 

 吉野は頷く。

「そうよ。私も許せなかったの。教育実習で出会ったあの女がテロリストになっていたという事実が。同じような思いを抱いた佐藤真実さんと私は協力してバイオテロを止めようとしたの。だけどできなかった。佐藤真実さんが何とか取引現場からアタッシュケースを奪うことに成功したけど、その途中追跡者に襲われて逆に奪われてしまった。その頃私はバイオテロが行われる可能性があったあのビルを警備していたわ。だけど小早川せつなは現れることはなかった。ウイルスがばら撒かれて、外で小早川せつなを探していた佐藤真実さんは感染してしまった」

 

 東條は吉野の話を聞き頷く。

「退屈な天使たちはあんたらをマークして潰そうとしていたちゅうわけか。佐藤真実を監禁して生中継映像で公開しとる理由は、あんたへの見せしめやったちゅうことか」

「はい。暗殺をしてしまえばいいのにわざわざ監禁している理由は見せしめだと思った私はバスジャック事件を起こそうと思ったのよ。後は牧田君と同じように監禁場所を問いただして、心中しようと思っていたわ」


 吉野は唇を噛む。

「絶対に許せない。慕っていた高校の先輩が邪魔になったから監禁した小早川せつなが」


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