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警察不信  作者: 山本正純
Episode 4  ミステリファンなら必ず分かる。だから安心してサスペンスに集中できるバスジャック事件
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Side.084 人質の選抜と誘拐事件の結末 A hostage's sorting and the end of a kidnapping incident

 電話は切れた。バスは東京へ向かおうとしている。牧田は仕方なく退屈な天使たちからの要求を呑み、運転手に銃口を向ける。


「後1時間適当に横浜市内を走行しろ。午後3時になったら横浜駅で人質を3人降ろす」

 このバスにいる人質は運転手も含めて10人。ここで運転手を降ろせば、小早川せつなに会えないので、運転手は横浜駅で降ろす3人の人質にはならない。残す人質は6人。


 もう一人降ろすわけにはいかない人物がいたことを牧田は思い出す。その人物は牧田と一緒にバスに乗り込んだ吉野智子。彼女を解放するわけにはいかないので、残す人質は5人。

 

 牧田は関西弁の男とその隣に座っている探偵という女の顔を見る。この二人は頭がキレそうな雰囲気を出している。ここでこの二人を降ろすのもいいかもしれないと牧田は思った。だが彼の脳裏にある事実が横切る。

(こいつらも降ろせないな。使い方次第で小早川せつなを追い詰める切り札になるかもしれないから)


 残る人質は後6人。この半分の人質を解放しなければ、悲惨な結末を迎えることになる。

 仕方ないと思った牧田は人質たちに声を呼びかける

「これから1時間後横浜駅で人質を解放する。これは解放されるチャンスだ。ただし解放でされるのは3人のみ。解放するチャンスが与えられたのは、運転手。関西弁の男。その隣に座っている女探偵。そして前から3番目の席に座っている女。以外の6人。さあ誰か立候補しろ。人質から解放されたいと名乗り出た奴は横浜駅で解放してやる」


 突然の出来事にざわめく車内。江角は解放されるチャンスが与えられた6人の男女の顔を見る。

 すると一人の七三分けの黒縁眼鏡の男性が手を挙げた。歳は30代前半くらいだろう。

「頼む。俺を解放してくれ。道の駅で解放された息子が待っているんだ」

「分かった。それでは前の席に移動してもらおうか」


 男はバスジャック犯の指示に従い一番前の席に座りなおした。

 

 それからチャンスがある5人は沈黙を続けた。白いジャージを着た金髪の男と横綱のように太っている男と青いロリータ服を着ている女はひそひそ話をしている。

 江角達の後ろに座っている茶髪のサングラス男とどこにでもいそうな専業主婦のような女もひそひそ話をしている。

「凄いチャンスだと思うけど」

「でも命の方が大切でしょう」

 

 女はサングラス男と一緒に手を挙げた。


 横浜駅で降ろす人質3人は決まった。だが江角は違和感を覚えた。

「東條さん。おかしくありませんか。バスジャック事件の人質から解放されるチャンスが与えられたにも関わらず、あの6人は一斉に手を挙げなかった。普通は6人全員が手を挙げてジャンケンか何かで3人を選抜するはずですよね」

 東條は江角の顔を見る。

「そうやな。何かあるかもしれへんで。このバスを狙ったバスジャック犯がまだいるかもしれないって訳や」


 午後2時50分。牧田は困った表情をする。江角は牧田に近づき声を掛ける。

「どうしました」

「解放する3人の携帯電話が分からない。あの3人には携帯電話を返さないといけないのですが」

「そうですか。それなら任せてください。記憶力はいいので」


 江角は青い巾着袋から携帯電話を取り出し、椅子の上に並べる。するとその内の3台のスマホが同時にメールを受信した。パスワードが設定されていたため内容は知ることはできなかったが、件名と差出人は同一だった。

『作戦変更のお知らせ。ボス』

 江角は頬を緩ませる。

(そういうことですか)


 江角は並べられた携帯電話から赤い携帯電話とクローバーのキーホルダーが付いた携帯電話と黒いスマホを選ぶ。もちろん指紋が付かないようにと持っていた白い手袋をつけて。

 江角は3台の携帯電話を牧田に渡す。

「この3台です。一応本人にも確認してください」

 江角はウインクすると席に戻った。

 


 午後2時55分。江角は立ち上がり七三分けの男に話しかける。

「本当にいいのですか。今このバスを降りれば確実に逮捕されますよ。小学校1年生くらいの少年の父親のように偽った、七三分けのあなた」

 一番最初に手を挙げた七三分けの男は驚く。

「どういうことですか。今バスを降りれば逮捕されるって」


 すると東條も立ち上がり江角の忠告の補足は話した。

「ほんまは誘拐犯なんやろ。あんたが誘拐したんは小学校1年生くらいの少年や。人質連れてこのバスに乗り込んだあんたやったけど、最悪なアクシデントが発生してしまったちゅうわけやな。バスジャック事件や」


 江角は東條の話に続くように誘拐犯に推理を話す。

「バスジャック犯が子供と老人を解放するって言った時あなたは爪を噛みましたよね。それはあなたが誘拐した子供が警察に保護されてしまうから。警察に保護されてしまえば、あなたの誘拐計画は破綻する。警察に保護されたあの少年は証言するでしょう。誘拐犯はあなたですと」


 江角たちの推理を聞き七三分けの男は大笑いする。

「証拠はないでしょう」

「証拠やったらあるで。とは言っても俺と江角はんが見つけた証拠はどれも状況証拠や。物的証拠は警察が見つけてくれるやろ」


 江角は男に証拠となる状況証拠を教える。

「まずは東條さんの証言ですね。あなたと少年がこのバスに乗り込んだ時に少年の体は震えていたそうです。当然バスジャック事件は発生していません。なぜ彼の体は震えていたのか。そしてあの少年はバスジャック事件の人質から解放される時笑顔になりました。普通は涙を流すと思いませんか。父親と離ればなれになるのだから。涙を流さなかったとしても普通はお父さんと叫ぶと思います」


「そん時もあんたは爪を噛んどった。つまりやあんたには分かっとったんやな。このままやと逮捕されてまう。誘拐計画が未遂で終わってまうってなぁ」


 二人の推理を聞き男は肩を落とす。

「負けたよ。二人の探偵さんの言う通りだ。俺は誘拐犯さ。でもバスジャック事件に巻き込まれた時に思った。これは便乗してバスジャックでもするべきなのか。それとも潔く自首するのか。俺は後者の自首を選択する。だから最初に手を挙げたんだ」


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