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警察不信  作者: 山本正純
Episode 4  ミステリファンなら必ず分かる。だから安心してサスペンスに集中できるバスジャック事件
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Side.082 動き出した事件 The incident which began to move

 午後1時10分レミエルはあるデパートの屋上からライフルのスコープでジャックされたバスの中を見ていた。彼は無線でラグエルに報告する。

「いたぜ。前から五番目の左。窓側に座っていやがる。それと奴の右隣にはハニエルが座っている。仲良く話しているところだ」

『ハニエルも人質でしたか。バス内に二人もメンバーがいれば、バスジャック犯を中から制圧することも可能でしょう。それでは追跡を開始してください』

「了解」


 レミエルはライフルをしまうと、駐車場に停めてあるポルシェ・ボクスターに乗り込み、バスを追跡する。

 


 バスとの車間距離は二キロ以上開けてある。レミエルとバスの間は五台の車が走っていた。この五台の車は警察関係者の車両で、バスを追跡しているのだろうとレミエルは思った。

「ありがたいな。警察についていけば、バスを見失うことはないからな」

 

 すると彼の前を走行していた警察関係者らしい車が右に曲がった。その直前にバスも右に曲がったので、間違いなく五台の車は警察関係者だろう。

「馬鹿な。確かあの道を右に曲がれば、道の駅に到着する。いったいどういうことだ」

 

 バスは道の駅に停車した。バスを追跡していた警察官は無線で捜査本部に連絡する。

「バスが道の駅に停車しました」

 牧田はバスの車内からあたりを見渡している。

「やっぱり追跡してやがったか」


 バスの周りには五台の車が停まっている。だが牧田は躊躇わず人質たちに呼びかける。

「俺が一発天井に発砲したら、運転手はドアが開けろ。ドアが開けば子供と老人はドアがか逃げろ。それからすぐにこの赤い巾着袋を外に放り投げる」

 

 6歳の少年は笑顔になり、バスのドアに移動する。そんな少年の顔を見て彼の連れである七三分けの黒縁眼鏡の男性は爪を噛み始めた。

 人質の内の子供と老人。合わせて10人がドアの周りに集まったことを確認した牧田は銃口を天井に向ける。

「それではスタートだ」

 

 牧田は引き金を引き天井に向けて発砲する。

銃声を聞いた警察官は無線で捜査本部へ報告する。

「銃声です。バス内から銃声が」

 

 それから間もなくしてバスのドアが開いた。ドアからは子供と老人合わせて10人が走って出てくる。

 

 バスの中から全員が避難したことを確認した牧田は窓を開け赤い巾着袋を放り投げる。

「さあ運転手さん。いますぐバスを走らせてもらおうか」

 バスは再び街へと走り出す。解放された人質たちを保護した警察官は無線で円谷刑事部長に連絡する。

「人質が解放されました。子供と老人10名だけですが」

『分かった。それから解放された10人の人質を所轄署に集めて事情聴取をしようか』

「はい」


 一方警察官たちから離れた位置に停まったポルシェ・ボクスターの中でレミエルは解放された人質を見た。今回解放された10人の中にハニエルたちはいないことを確認したレミエルはラグエルに連絡する。

「たった今バスジャック犯が人質10人を解放した。だがその中にはハニエルたちはいなかったぜ。あいつらはまだバスの中にいる」

『ご苦労さまです。そのまま東京に向かってください。サラフィエル程の洞察力があれば、車内からあなたの車を見つけることも容易でしょうから』

「組織がこの一件で動いていることは分かるってことか。分かった。後はお前らに任せる」

 


 レミエルは車を東京方面へ走らせる。その道中ジャックされたバスが見えた。レミエルはそのバスを追い越す。

 その様子を東條は車窓で見ていた。

(あの外国人。レミエルやな)


 東條の頬は緩む。その表情を見た江角は不思議に思った。

「どうかしましたか。東條さん」

「何でもあらへん」



 その頃横浜オリエント観光バスジャック事件の捜査本部で円谷刑事部長は天谷刑事からの報告を受けていた。

「円谷刑事部長。バスジャック犯の身元が分かりました。バスジャック犯は牧田誠。21歳。彼が話した携帯の電話番号が彼の物と一致しました」

「確かだろうな」

「はい。先ほどジャックされたバスから子供と老人の人質が解放されたという報告は受けましたよね。その時バスジャック犯は窓を開けて赤い巾着袋を放り投げました。その時捜査員がバスジャック犯の顔写真の撮影に成功」


 天谷は捜査員が撮影したバスジャック犯の写真を見せる。そこには確かに牧田誠が写っていた。

 この写真を見て円谷は呟く。

「おかしくないか。なんで牧田は顔を隠していない。普通バスジャック犯は目出し帽で顔を隠すだろう。そうしなければ身元がばれてしまい捜査が円滑に進むだろう」

「もしかしたらこのバスジャック事件には裏があるかもしれません。それともう一つ。解放された人質の中に気になる人物がいました」


 天谷は一枚の写真を見せる。その写真に写っていたのは6歳くらいの男の子。

「名前は青木聡史。6歳。青木照夫警視庁交通部長の息子です。青木交通部長に確認した所、今日の午前7時30分横浜小学校に通学しようとしている聡史君を何者かが誘拐したそうです。要求はまだありませんが、青木交通部長のもとに聡史君を誘拐したという趣旨の電話が届いたそうです」

「ということはその誘拐犯があのバスの中にいるかもしれないということだな。人質が全員解放され次第バスジャック事件の捜査から誘拐事件の捜査に切り替える」



 その頃警視庁交通部長室で青木照夫警視庁交通部長は神に祈り続けた。すると一人の刑事がドアをノックして部屋の中に入ってきた。

「青木交通部長。聡史君が無事保護されました」

「それは本当か。今聡史はどこにいる」

「はい。横浜でバスジャック事件が起きたことは知っていますよね。その事件の人質になっていましたよ。誘拐犯と一緒に」


 青木は冗談だと思った。まさか誘拐犯が別の事件の人質になるとは思わなかったからだ。

 報告をするために現れた刑事は青木に一枚のファックスを見せる。

「これは聡史君と一緒にいた男のモンタージュ写真です。おそらくこの男が誘拐犯だと思います」


 そのモンタージュ写真を見て青木は目を見開かせる。

「間違いない。山田伸也だ。3年前の連続ひき逃げ事件で逮捕した男だな。この誘拐事件の同期は捜査を指揮した俺への逆恨みだろう」

 

 バスジャック犯が子供と老人の人質を解放したことで息子が誘拐犯から保護することができて、青木は安心した。そして青木は刑事に指示する。

「神奈川県警に連絡しろ。誘拐犯山田伸也を逮捕しろとな」


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