Side.069 事実確認 Fact check
午前10時木原と神津は浅草にある牧田商店で牧田誠に話を聞きに来た。だが彼は部屋から出てくることはなかった。仕方ないので木原たちはドア越しに事情聴取をすることにする。
「10月22日午前7時あなたは浅草駅で女性と会っていましたよね。なぜ会ったのでしょう」
「妹の家庭教師を小早川がやるって聞いたから、兄として確認しておきたかった。もしかしたら縁りを戻そうというメッセージだったかもしれないからな。まあそんなことを小早川は考えていなかったらしいがな」
牧田の答えを聞いた木原は首を傾げる。
「小早川せつなさんとあなたは元彼女の関係でしたか。それと一つ訂正しますが、あなたが会ったのは小早川せつなでなく、宮本栞の可能性もあります。小早川さんは失踪しているそうですから」
木原の言葉を聞き牧田は怒鳴る。
「そんなことがあるはずがない。元カノの存在を否定された気持ちがお前らに分かるか。小早川は失踪なんかしていない。現に俺はあの日小早川に会ったからな。あの独特の香水の匂いは間違いなく小早川だ」
神津は目を点にして牧田に聞き返す。
「小早川せつなは双子ではないのか」
「ありえない。あいつは一人っ子だ。双子の姉妹なんているはずがない。昨日も言ったがそんなくだらない捜査をするくらいなら、早く真実を解放しろ」
この言葉を最後に牧田は刑事の質問を無視するようになった。
それから木原たちは伊藤セキュリティ会社へやってきた。彼らは吉野智子に事情聴取をする。
「またすみません。警視庁の木原です。少しだけ時間を頂けませんか。麻生さんの娘さんに関して、昨日あなたは麻生さんの娘さんは宮本栞さんと言いましたね。しかしその後の捜査で麻生さんの娘さんは佐藤真実さんであることが分かりました」
吉野は顔を曇らせた。
「そうですか。あの娘が麻生さんの娘さんだったのですか」
吉野は腹をくくり事実を刑事に伝える。
「別に隠していた訳ではないのですが、私が佐藤さんの家庭教師になったきっかけはSNSで知り合ったからです。彼女とはよく人生相談をしていました。その延長線上で家庭教師のバイトをしていました。9月11日に久しぶりに佐藤さんから人生相談の依頼が来ました。その時の相談内容は犯罪をしている知り合いに自首を勧めることが友情なのか。私は自首を勧めるために説得を続けるべきであると答えましたが、その時彼女は涙が流しました」
木原たちの脳裏に一連の事件の動機が浮かんだ。木原たちは吉野に感謝して伊藤セキュリティ会社を後にした。車に乗り込んだ神津は運転席に座った木原に話しかける。
「木原。お前にもこの事件の真相が見えただろう」
「はい。佐藤真実さんは9月11日より前に知り合いが犯罪に関わっていることを知り悩み、吉野智子に相談しました。その相談を受けた日以降に佐藤真実さんは黒幕と接触。だが黒幕は彼女の話を聞かず、バイオテロを装って彼女の口を封じようとしました。態々監禁事件を生中継しているのもテロ組織退屈な天使たちによるテロ活動という隠れ蓑を使い真相を隠蔽するため。黒幕はテロリストではないとも考えられます」
神津は木原の言葉に首を横に振る。
「そこまではまだ分かっていないだろう。とにかくこの事件の容疑者は三人。幼馴染の久保田太郎。彼氏の牧田誠。そして後輩の小早川せつなこと宮本栞」
この三人の中に佐藤真実監禁事件の犯人がいる。真相に迫る日は遠くないだろう。
車内で神津は木原に次の目的地を指示する。
「次は小早川せつなの自宅マンションに向かうか。彼女の自宅マンションと国枝博の自宅は目と鼻の先。何かあるかもしれないだろう」
「はい。それとあの周辺には佐藤真実の友人が住んでいるそうです。確か今日は大学が休みだから自宅にいるかもしれません。彼女にも話を聞きましょう」




