Side.066 テレビディレクター殺人事件 Television director murder case
それから10分後神奈川県警捜査一課は現場へ臨場した。狩野は現場の状況を説明する。
「死亡したのは萩原聡子。23歳。職業はテレビ局ディレクター。殺害方法は拳銃による射殺。その証拠に彼女の右腕と胸部に銃痕があり、その近くには薬きょうが落ちています」
現場の説明を終了した狩野は野次馬の中から第一目撃者を捜していた捜査員に加わる。
「この殺人事件の目撃者の方はいませんか」
すると40代後半くらいの女が手を挙げた。
「第一目撃者は私です。夕食の買い物帰りにこの道を通ったら、男女の口論が聞こえてその後すぐに三発の銃声が聞こえました。まさかと思って男に声を掛けようとしたら逃げていきましたが。男が立ち去った後で目撃したのがあの死体でした」
狩野は目撃者の女に詳しい話を聞く。
「口論というのは具体的にどのようなものでしたか」
「確か女の方が『約束が違う』って言って、男は『仕方ないじゃないか。あの子を救うためなら』って言っていました」
「では現場から逃走した男の特徴を覚えていますか」
「顔や髪型は黒いフードで隠していたから分かりませんが、服装なら分かります。上は黒いフード付きのパーカー。下はジーパンでした。身長は160㎝前後。私の息子と同じくらいの身長に見えたから間違いありません」
目撃者の証言から狩野はこの殺人事件の動機は怨恨であろうと思った。
現場には犯人を特定できそうな遺留品はなかったため、狩野は神奈川県警に戻り、神奈川県警刑事部長に捜査本部の設置を依頼した。
刑事部長は事件のあらましをまとめる。
「なるほど。連続通り魔事件の第一の被害者萩原聡子が殺害されたか。犯人は身長160㎝前後のフード付きのパーカーにジーパンの男。現場に犯人を特定できる遺留品は残っていなかったが、目撃者の女は犯人と萩原聡子が口論している所を目撃した。以上のことから怨恨の線で捜査する。これだけの情報があるならマスコミを使って情報提供をするか。明日からで構わないが被害者の周りにいる身長160㎝前後の男を探し出せ。それと同時進行で被害者と口論になる動機がある関係者を探すんだ。目撃者の証言と動機がある人物が合致する人物が犯人だからな」
その夜ウリエルは佐藤真実の監禁場所に泊まり込んだ。彼女の隣ではラグエルが座って体操をしている。
そんなラグエルにウリエルは話しかけた。
「ラグエル。萩原さんが殺されたことは報告しましたよね。これからどうしますか」
「捜査でもしましょうか。この殺人事件の犯人が化け狐でないことを証明してください。まあ実際に捜査するのは神奈川県警の刑事に変装した僕の仲間です。あなたは神奈川県警から流出した情報を元に安楽椅子探偵として推理するだけです。本当はこの仕事を本業が探偵であるハニエルにすればいいのですが、彼女は明後日に帰ってきます。彼女は今頃探偵稼業に取り組んでいる頃でしょう。仕事を増やすわけにはいきません。だから探偵役はあなたにします。事件の真相が分かれば、レミエルかラジエルが動きますから」
「いいえ。真相が分かれば私が殺しに行きます」
「それでもいいでしょう」
ラグエルは微笑んだ。明日からは殺人事件の捜査が始まる。




