Side.064 愛する人の死を目の前で It is impending about the death of those who love.
その頃神津は浅草行の電車に乗り、牧田商店へと向かおうとしていた。車窓を見ていると右側から遠藤アリスが声を掛けてきた。
「神津さん。久しぶりですね」
神津は遠藤アリスに会い驚く。彼女は公安調査庁長官の秘書だから、四六時中浅野房栄に張り付いていると考えていたからだ。
「なぜあなたがこの浅草行の電車に乗っている」
「バイオテロ絡みの捜査ですよ。あの事件の容疑者である牧田誠さんに話を聞きに行くところです。神津さんはなぜこの電車に乗っているのでしょう」
「俺もその牧田誠に会いに行くところだ。教えてくれ。牧田誠がバイオテロの容疑者として浮上した理由を」
神津の質問にアリスは微笑み答える。
「いいでしょう。大きな声では話せませんが、バイオテロが起きる一週間前から牧田はウイルスを散布した久保田花子と何度も接触していたそうです。その事実を裏付ける証言が多く出ています。さらに流星会のアジトに何度も出入りしているという目撃証言もあります。その流星会のアジトが退屈な天使たちのメンバーの密会場所だとしたら」
神津はアリスの言葉に続くように解釈を話す。
「牧田誠は退屈な天使たちのメンバーの可能性が高いということか。流星会と退屈な天使たちは協力関係らしいから間違いないが、本当にそのアジトに奴らの仲間がいたのかという事実は確認できない」
電車は浅草駅に止まり、二人は電車を降りた。彼らは牧田商店に歩いて行った。
浅草駅から歩いて五分という場所に牧田商店はある。その商店は今にも潰れそうな店だった。
商店のレジには頭に白い鉢巻をした誰が見ても頑固おやじのように見える男が座っている。
神津は警察手帳を見せて男に話しかける。
「警視庁の神津だ。牧田誠君に話を聞きたい」牧田誠という名前を聞き頑固おやじが怒りだす。
「あのバカ息子がまた何かやったのか」
「その疑惑があるというだけですから」
遠藤アリスがフォローするとロックを聞きながら若い男が帰ってきた。
「おやじ。うるさいな」
頑固おやじは男の態度を見て怒る。
「誠。刑事さんだ。お前またなにかやったのか」
「知らねえよ」
神津は改めて警察手帳を見せて自己紹介する。
「警視庁の神津だ。牧田誠君。話を聞いてもいいかな」
刑事の言葉を聞き牧田は激怒する。
「話を聞きに来ただと。佐藤真実が発見されたという報告じゃないのか」
遠藤アリスは牧田に状況を説明する。
「いいえ。我々は偶然佐藤真実が監禁されたと考えていません。一連の事件の犯人は佐藤真実の周りにいる人間の中にいると考えています」
「それでお前らは俺が一連の事件の黒幕だと考えているということか。そんなくだらない捜査をしているから、退屈な天使たちを逮捕できないんだ。そんなことより早く佐藤真実を解放しろ」
牧田誠は怒り部屋へ戻る。そんな誠の姿を見て彼のおやじは刑事たちをフォローする。
「すみません。誠は彼女が監禁されたと知った時から突然引きこもりになった。たぶん佐藤真実が監禁されている生中継映像を観ているのだろう」
神津とアリスは牧田商店を後にした。浅草駅へ戻る道中アリスは神津に話しかけた。
「牧田誠さんの気持ちは分からなくもありません。あのウイルスに感染すれば最高で10日の命。いつ死亡してもおかしくないでしょう。だから私も愛する人の死を目の前で見ることができるなら、引きこもってでも映像を観るでしょうね」
「彼に愛する人の死を見せないためにも、事件を早期解決して、佐藤真実を生きた状態で退屈な天使たちから解放しなければならないということか」
二人は事件の早期解決を誓い合う。




