Side.056 想定外の出来事 An unexpected occurrence
この犯行声明はニュース番組で大々的に報道された。このことに一番驚いているのは須田哲夫だった。退屈な天使たちのメンバーである彼はこの犯行声明について把握していなかったのだ。昼休憩中に彼のサマエルから電話が届いた。
「サマエル。今朝発表された犯行声明について分かりましたか」
『はい。どうやら組織のコンピュータがハッキングされたようです。そこから過去10年間の犯行声明の文章データが盗まれました』
サマエルからの報告を受け須田は感心する。
「中々やりますね。組織のコンピュータは神憑りの能力を持つハッカーにしかハッキングできないはずですよね」
『ああ。それで文章データを盗んだハッカーの目的は何だろうな』
「化け狐の目的は国家を脅かす振り込め詐欺でしょうね。振り込め詐欺を取り締まる警察を対象に振り込め詐欺を仕掛ける度胸は賞賛するに値します。ただしこのまま化け狐を野放しにすると、濡れ衣を着せられることになります。ということで化け狐を狩ります。あの方からの許可はこれから取るということにして。許可が取れたら組織のコンピュータに侵入したハッカーの特定をしてください」
ラグエルは電話を切りながら心の中で呟いた。
(こっちは容疑者を特定しますか)
その頃弁護士の菅野聖也は警察庁に呼び出されていた。彼は榊原刑事局長に呼び出された。入室するなり菅野は用件を質問する。
「榊原刑事局長。用というのは何ですか」
「その前にファイルΩを覚えているか」
菅野はファイルΩについて思い出す。そのファイルには国家転覆が容易にできるほどの国家の不祥事が保存されている。そのため多くのテロリストは国家転覆を狙うため喉から手が出るほど欲しいと思っている。それは退屈な天使たちも同様であると警察組織は考えている。
「覚えていますが、そのファイルがどうかしましたか」
「実はこのファイルが保存されている国家機密クラスのコンピュータが何者かにハッキングされて、ファイルを閲覧された形跡があるそうだ。このファイルの存在を一般人は知らない。ということは容疑者が限定される。君にはこの不正アクセス事件の捜査をしてもらいたい。容疑者は政界や警察組織の中にもいるから全く関係ないあなたにしか捜査を頼むことができない」
菅野は首を縦に振る。
「いいですよ。この事件の被疑者ではないかという人物に心当たりがあるのでこれから接触してみますね」
菅野は刑事局長室を退室して、その足で警視庁へと向かう。不正アクセス事件の第一容疑者に接触するために。




