Side.047 職務質問 Police checkup
合田たちが暗号解読に励んでいたころ黒いスーツ姿のウリエルは東京駅のコインロッカーからアタッシュケースを取り出した。
(まさか公共交通機関を使ってウイルスを運ぶなんて考えないよね)
ウリエルは丸ノ内線の乗車券を買い、電車に乗り込む。彼女の100メートル後ろには青いネクタイをした黒服の男が立っている。男は曲がったサングラスを直し、彼女とは別の車両に乗り込む。
まもなくして電車は走り出し、ウリエルと鴉は終点の池袋へと向かう。
ウリエルは辺りを見渡す。彼女の近くに護衛をするはずの鴉がいないからだ。
(やっぱり別の車両で警察がいないかを探っているようですね)
すると一人の男性がウリエルに声をかけた。
「すみません。警視庁の大野達郎と申します。少々時間を頂けませんか」
大野は警察手帳をウリエルに見せる。それを見てウリエルはまずいと思った。旨くやり過ごさなければ、バイオテロは失敗に終わる。
「何でしょう。事件ですか」
「いいえ。ただ一つ気になったことがあるので、もしかしたらやましいものでも運んでいるのかなと思っただけです」
ウリエルは一般人を装うため首を傾げる。
「おもしろい刑事さんですね。私が運び屋であるという根拠を教えていただけますか」
「あなたの行動が不自然だということです。まずあなたはアタッシュケースをこの電車内に持ち込みました。そのアタッシュケースを大事そうに今も持っている。ということはそのアタッシュケースの中には何か大切なものが入っているという証拠です。普通人が多く集まる電車内にそんな大切なものを持ち込みますか。すられたら大変だから普通は持ち込まないでしょう」
大野の話を聞きウリエルは拍手する。
「凄いですね。たしかにこういう大切なものは電車内には持ち込まないでしょう。だけど刑事さんの推理は間違っています。私はある会社にコピー機のプレゼンに行くOLだということです。この電車に乗ったのは、送迎をしてくださる方が風邪をひいてしまったから。仕方なくこの電車へ向かうことにしたのです」
これで疑惑は晴れたとウリエルは思った。しかし大野はさらに質問をする。
「ではそのアタッシュケースの中身を見せていただけませんか」
絶体絶命のピンチだとウリエルは思った。今アタッシュケースの中身を調べられると、バイオテロは失敗に終わる。
隣の車両で青いネクタイの鴉はウリエルと刑事の会話を盗聴していた。彼女のピンチを知った彼はトイレに移動して、ウリエルに電話する。コール音を二回鳴らしただけで会話はしていないが。
スーツのポケットに忍ばせたスマホのバイプ音を二回触覚で感じたウリエルは心の中でガッツポーズをした。
丁度その時電車内にアナウンスが流れた。
『次は後楽園駅。後楽園駅・・』
ナイスなタイミングだと思いウリエルは右側のドアに向かう。電車が後楽園駅に止まりドアが開くとウリエルは大野の顔を見ながら微笑んだ。
「それでは刑事さん。私はここで降りますが、捜査頑張ってくださいね」




