Side.036 爆弾魔への制裁 Sanction against a bomber
夕方のニュースではこの爆弾事件の速報を報道していた。
『神奈川県警は爆弾事件の捜査を開始しました。赤い車に仕掛けられた爆弾は携帯電話で遠隔操作するタイプのもので、被害規模は最小限になっていました。爆破された車は盗難車。車内に運転手の焼死体がなかったことと、路上駐車した車から犯人と思われる男性が出てきたところが防犯カメラに映っていたことから、運転手が爆弾魔であるとみて捜査しています』
暗い部屋にいる男はニュース番組を観ていた。
(運転手が爆弾魔か。ということは捜査線上に俺は浮上していないということ。今運転手を殺せば事件は・・)
「迷宮入り。とでも言いたいのですか」
突然後方から女の声が聞こえ男は驚き振り返る。彼の後ろにはウリエルがいた。
黒いフードを被り、顔を隠した男はウリエルに話しかける。
「ウリエル。なぜお前がここにいる」
「天狗になっているあなたにくぎを刺しにきただけです。警察は運転手の男が爆弾犯だと思い込んでいるでしょう。だからあなたが捜査線上に浮上することはない。でもね。あなたは運転手を殺す必要はありません。なぜなら彼は今頃処刑されているはずですから」
男はウリエルの言動に怒り、その場にあったナイフで彼女を襲う。しかしウリエルは素早く避け、男のナイフを奪った。
「お前らは俺の相棒を殺すのか。なぜだ。あいつは完璧にお前らの計画に従ったはず」
「完全犯罪ではなかったから殺すのです。ニュースで観たでしょう。防犯カメラに爆弾魔と思われる男が映っていたって。本来は防犯カメラの死角となる位置で路上駐車するはずでした。ところが彼は防犯カメラに映る位置に車を停めてしまった。防犯カメラに映ったことで容疑者になった彼が逮捕されるのは時間の問題。彼が逮捕されれば共犯者がいることを自白してあなたが逮捕されます。組織は警察で自白する前に口をふさぐつもりです」
「くそ。そんな凡ミスであいつは殺されるのかよ」
男は携帯電話に手を伸ばす。もう少しで届くところでウリエルは彼の手を掴む。
「どこに電話するつもりですか。警察。それとも相棒の安否を確認するのかな。そんなことしたらあなたの人生は終わる」
男は顔を曇らせた頃爆弾魔として警察に追われている運転手の男は商店街の路地裏でラジエルと対峙していた。ラジエルはスタームルガーMkiの銃口を男に向ける。男は慌てる。
「待ってくれ。あの爆破した車に俺の指紋はついていない。物的証拠はないんだ。それがだめなら爆弾魔に脅迫されて自動車を路上駐車したとでも言えば、完全犯罪だ」
「確かにそれをすれば完全犯罪ですが、そんなことでガブリエルが納得するとは思えない。最期にガブリエルの座右の銘を教えようか。疑惑の残る犯罪は完全犯罪ではない」
ラジエルの放った銃弾は男の心臓を撃ちぬいた。サイレンサーを取り付けたため銃声は聞こえることはない。この辺りには焼き鳥の店があるため白煙が出ていたとしても誰も怪しむことはないだろう。ラジエルは男から携帯電話を奪い捨て台詞を言い逃走する。
「この爆弾事件のギャラは全て相棒に寄付するからな」




