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警察不信  作者: 山本正純
Episode 5 銀の弾丸
105/106

Side.105 血で汚れた心 The heart dirty with blood

 ラグエルは海原の射殺体を見ながら、須田哲夫へ変装する。その時ラグエルの携帯電話がバイプ音を出した。携帯電話にはレミエルという文字が表示されている。仕方なく彼は電話に出ることにした。

『よかっただろう。さっきの射撃は』

 開口一番に仕事の出来を聞いたレミエルの言動を聞きラグエルは呆れた。

「確かに見事でした。しかし結末が一緒だったというのはお粗末だと思いませんか」

『思わないな。お前は防弾ジョッキを脱いだだろう。さらに唯一の武器である拳銃も捨てた。これらはラグエル。お前が窮地に立たされているものと俺は考えた。だから狙撃しただけだ。7月2日もお前はピンチになっただろう。あれと同じだ。あの時はラジエルが狙撃したが』

「まだ怒っているという解釈でいいですか。あなたを一週間早く呼び戻していたら、その狙撃はあなたがするはずだったから」

『ああ。そうだ。報告だが、ウリエルとハニエルとサラフィエルは既に避難した。今頃アジトに隠れているころだろうぜ。最後の仕上げ任せたからな』

 激励の言葉の後で電話は切れた。ホテルの前には消防車が多数止まっており、消火活動を行っている。

 

 変装を完了したラグエルは避難階段を下りている。頑丈な避難階段は爆音によって揺れている。これ以上爆発が続けばホテルは確実に倒壊するだろう。そこまでする必要があるのか。ラグエルには理解できない。


 その頃佐藤真実の監禁場所にいたサマエルはノートパソコンで警視庁にメールを送ろうとしていた。

『お疲れ様。佐藤真実は解放するよ。監禁場所は神奈川県横浜市・・』

 メールを送信したサマエルはノートパソコンをシャットダウンすると、床に置いてあるアタッシュケースに目をやった。

「これで20年前の亡霊は消える」


 ノートパソコンが入っている鞄を持ってサマエルは監禁場所から逃走した。外では黒いワンボックスカーが停まっていた。サマエルはその車に乗る。車内にはウリエルとハニエルとサラフィエルの3人が乗っていた。サマエルが乗り込んだ車は5人乗り。運転手のピンクの鴉は車を発進させる。

 助手席に座っているウリエルにサマエルは質問する。

「ラジエルと鬼頭が捕まったそうじゃないか。これからどうする。ボーナスゲームでもするのか」

 ウリエルは首を横に振った。

「いいえ。我々の仕事はここで終了です。次の仕事は未定。もっとも今後は通常通り事件の裏で暗躍する形になりますが」

 

 車は群馬県にある退屈な天使たちのアジトへと向かっている。

 現在の時刻は11月1日深夜0時。この一か月間表舞台に立ち世間を騒がしていた退屈な天使たちは静かに表舞台から姿を消した。

 


 11月1日深夜0時10分。警視庁の刑事は神奈川県警の刑事と共に、佐藤真実の監禁場所の前にいた。

 彼らは拳銃を構えて監禁場所に突入する。だがテロリストにメンバーらしき人影はどこにもなかった。刑事たちが監禁場所を捜索していると、衰弱している佐藤真実を発見した。彼女はうつ伏せに倒れているが、呼吸ははっきりとしている。病院に運べば助かるだろう。


 佐藤真実は病院に搬送された。狩野が救急車を見送っていた頃、警視庁の刑事たちはテロリストに繋がる遺留品を探していた。だが手がかりになりそうな遺留品は見つからない。

 すると一人の刑事アタッシュケースを発見した。その中身は白い液体と注射器。まさかと思い刑事は国立微生物研究所に分析を依頼した。



 その頃大野警部補は東京都警察病院の集中治療室の前にいた。集中治療室の中では大野の前で拳銃自殺しようとした退屈な天使たちの構成員らしき女性が治療を受けている。

 彼女の意識が戻れば退屈な天使たちの手がかりを得ることができるかもしれない。だが意識が戻らなければ、大野をやるせなさが襲うだろう。大野は退屈な天使たちの構成員と名乗る女性を救うことができなかった。誰かが目の前で自殺する瞬間を人間は忘れることができない。それは警察官である大野も同じだった。

 

 どうすれば彼女を救うことができたのか。大野の頭には後悔という文字しか残らない。

 そんな彼に一人の男が声を掛けた。その男の名前は須田哲夫。組織犯罪対策課の警部補だ。

 須田は心配そうな表情をして大野に話しかける。

「まさか退屈な天使たちの構成員の女を助けることができなかったことを後悔しているのですか。それなら止めたほうがいいかもしれません。彼女は多くの犯罪に関与していると考えた方がいい。構成員の女はあなたを本気で殺そうとはしなかったそうですね。だとしたら彼女は更生できます。犯罪者を救うためには血で汚れた心をきれいに洗い流す必要があります。それをするためには、善人の熱い心と言葉が必要でしょう。大野警部補。あなたはそれを持っている。だからそれを大切にして、多くの犯罪者たちを更生させてください」


 そこへ一人の組織犯罪対策課の刑事が現れた。

「須田警部補。深夜2時流星会のアジトで麻薬の取引をするそうです。望月警部からの指令で取引現場を押さえろとのことです」

 須田と組織犯罪対策課の刑事は車で取引現場へと向かった。それが最期になるとも知らないで。


次回は最終回スペシャル。衝撃のラストを見逃すな。

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