特訓と気晴らしの狭間。
「お待たせー!!」
「ルノー、席をはずしていて悪かったな。
アイリちゃんいらっしゃい。」
アイリがルノーの話を聞いて決意を新たにしたところで、レンドリックとメリッサの父娘が戻って来た。
「いえ、二山減ってますしいい調子だと思いますよ。」
「お前のお陰でほとんど判子やサインで済むようにまとめてあるから本当なら昼食前には片付けたかったんだけどなぁ…」
流れるようにお茶とタオルを渡すルノーはまるで従者のように甲斐甲斐しい。
レンドリックは一気に茶をあおってからタオルで汗をぬぐい、ソファーに座ってため息をついた。
「なにかありましたか?」
「ああ、門までは騒ぎが聞こえなかったか…
ほら、近衛部隊入隊予定の貴族のご子息様方が研修に来てたろう。
平民に指図される覚えはないと言って指導役に食って掛かったらしいんだ。」
「あー、毎年いますよね。鼻をへし折る役目を毎回押し付けらますものね~」
「えっ、鼻折るの?!」
メリッサがぎょっとして言った。
アイリはなんの事か分かったが、普通は分からないかもしれない。ルノーが優しく笑って答えてくれた。
「本当に折るんじゃなくてね、鼻っ柱をへし折る…は相手の自信や高慢をくじく事なんだ。
貴族のご子息の中には、プライドだけは馬鹿高くて実力無い子もいるからね。
お飾りじゃ王族や国民を守れない。少なくともユナカイト様が率いるウチは実力主義だからね。そこで根性叩き直せってことで送られる。かなり迷惑だよ。」
笑っているが、内容は険しい。相当ひどいのが来ているらしい。
「まぁなぁ。それでそいつらの報告書も出さなきゃならんからなぁ。
で、だ。
食って掛かったところを丁度、執務室から抜け出したユナカイト様に見られたらしいんだ。」
「ユナカイト様、また逃げ出したんだ。」
「まだ騎士舎内だからましだよ、メリッサちゃん。」
「ユナカイト様が逃げるってそんな頻繁なんですか…!?」
メリッサさえ知っている程、逃げるらしい。
それは上司としてどうなのだろう…と、またひとつアイリの中でユナカイトに対する尊敬ポイントが減少した。
「ユナカイト様の父君が元々平民なのを知らなかったみたいでなぁ。
生まれで強さが云々言うのなら高貴な生まれの君達はそれはそれは強いんだよね、じゃあまとめて相手してあげるからかかってきなよ。と言って一対十数人で模擬戦をしたそうだよ。
貴族連中は真剣、ユナカイト様は木剣でだ。」
「アルベイル様はおられなかったんですか?」
副団長のアルベイルが止めないはずはないと思ったのだが…
「丁度、一段落した書類を王城に渡しに行って留守だったんだ。
ユナカイト様は強いから負けるわけなどありはしないんだが、降参を許さずひたすら稽古だ鍛練だと相手を強制的にぶちのめし続けてな。
止めるために呼ばれていたんだ。
しばらく木剣で打ち合いしていたらアルベイル様が戻られてユナカイト様にとび蹴りをいれて引きずって行ったところにメリッサが来たんだよ。」
監視役が離れたスキをついたようだ。
蹴りとばされるユナカイトの姿はありありと想像できるアイリだった。




