似た者同士。
大きな机には書類が一山できていた。
ローテーブルにくすんだ青色のソファーと本棚、軍旗以外は特に何もない部屋にアイリとメリッサは案内された。
ソファーは固い。
以前アイリが治療にと連れられてきた部屋だった。
どうやらここはレンドリックが書類作業をする隊長室件応接室のようだった。
中にレンドリックが居ないことを確認したルノーは困ったように笑った。
「じゃあ、ここで待っててね。隊長呼んでくるよ。」
「待って、ルノーお兄ちゃん。私呼んでくるよ!
あれでしょ、鍛練場でしょ?」
「そうだけど、いいのかい?」
「書類にあきて体動かしに行ったんでしょ?私が呼んでくるから飲み物用意したりしてほしいな。」
「そうかい?じゃあお願いしようかな。気を付けてね。」
「はーい!アイリちゃん、私お父さん呼んでくるから食事だしてもらえるかな?」
「うん、まかせといて。」
笑顔で出ていくメリッサを見送るアイリとルノー。
扉がしまると、アイリはバスケットを開け、ルノーはお茶の用意をした。
二人とも手際がよすぎてあっという間に準備は終わる。
少しの沈黙の後、ルノーが声を掛けてきた。
「アイリちゃんはとても優秀だね。」
「いえ、仕事や任されたことは徹底的に…と教わってきましたので。」
「そうか。無理はしてない?」
「私が幼く見えるから辛そうに見えるんですか?」
アイリはちょっとムッとした。
小さいのに可哀想に、はよく言われてきた。なんで奥様みたいにとはいかないまでも認めてくれないのだろうか。
「ああ、違うよ。可哀想にとか思ってるわけじゃないから。」
「え、」
「俺もね、6つの頃に両親病死してよそ様のところで小間使いしてて、色々あってレンドリック隊長の所にお世話になる事になって、まぁまた色々あってここにいるからさ。」
「ええ!?」
「自分じゃ気付かないうちに無理してないか心配だったんだ。」
穏やかにルノーは笑う。
どこかのほほんとした雰囲気の彼にそんな過去があったとはとても思えない。
「別に無理なんて…」
「徹夜で台所掃除は十分無理だよ。」
「なんで知って…」
最近やらかした出来事をズバリ言われてアイリは焦った。
事実を知った人々にまずはユナカイトが吊し上げられ、アイリは心配された上に説教までされたのだ。
「俺がレンドリック隊長に会ったきっかけはさ、両親は商人で、たまたま流れ着いた村で病死して、宿の主人に全財産没収されたあげくお情けで働かせてやってる…と言われ続けて生きてきて些細なミスで暴行を受けたあげく馬小屋にぶちこまれたときにたまたま山津波がおきて馬で逃げながら隣町に知らせて保護されたからなんだけどね…」
「いきなりすごい重い話になった…」
「まぁ落ちついてもみなしごだったから引取り手もおらず、孤児院もいっぱいでレンドリック隊長が引きうけてくれてメリッサちゃん達の家で暮らすことになったんだよ。」
「ああ、だからメリッサちゃんがお兄ちゃんって言ってるんですね。」
「そうなんだよ。
丁度その頃、メリッサちゃんは捕まり立ちできる位でヘレンさん…あ、メリッサちゃんのお母さんね。は妊娠中、エルサちゃんは絶賛反抗期中でそれはそれはすごいノイローゼ気味だったんだ。」
「絶賛の意味が違うっていうか、そんな酷いときに更に子どもを引き受ける神経が…」
うんうん、とルノーが頷く。
「そうなんだよね、優しいんだけど無神経なんだよ。
レンドリック隊長が事情を話したら、それはかわいそうだけどちょっとは家の事も考えてと大泣きして大騒ぎ。
エルサちゃんはお腹すいたって泣くし、つられてメリッサちゃんもなんとなくギャン泣きして修羅場だった。」
「うわぁ…え、ルノーさんそこでどうしたんです?」
「とりあえず、夫婦は話し合うべきだと思って放置して、夕食作りつつ台所の掃除や水の補充もして提供した。」
「その時ちなみにおいくつで…?」
「丁度、アイリちゃん位の時。10歳だったかな。
まぁ、それでレンドリック隊長が居られない代りに色々お手伝いしますので置いてくださいと頭を下げて同居がスタートして、今に至ります。」
「かなりヘビーですね…」
「はは、でも恵まれてますよ。俺はすごく。
だから、アイリちゃんが心配なんだ。周りの人は優しいだろう?
だからこそ、この人達のために何かしたいと思える。
多少の理不尽なんて吹けば飛ぶような埃と同じ。」
ルノーの言葉は驚く程、アイリの内心を当てていた。
目を瞬かせ、口をポカンと開けてしまった。なにか言おうと思っても、言葉にならない。
「ってね~、そう思って無理や無茶をそうとは気付かず続けた結果、何度か倒れちゃったんだよね。俺。」
「子どもか過労で?」
「お恥ずかしながらこの職についてからも何度かもある。
だからね、まぁ、ユナカイト様には難しいかもしれないけどさ、メリッサちゃんとかアルベイル様、レンドリック隊長や俺なんかでもいいから困ったときはいつでも言ってね。
何にも言わない方が周りを困らせるって最近ようやく気付けたからさ。」
「はい…気を付けます。」
私は本当に周りに恵まれてるな…とアイリは思った。
シュトーレンから出てひとりぼっちになったと思ったけれど、あっという間に大切な人達ができた。
だから、優しい人を困らせるような無茶はなるべくしないようにしよう…と心で決意するのだった。




