温厚に見えるだけだった。
「じゃ、さっそく手続きにいこう!」
ユナカイトが笑顔で立ち上がる。
アイリは焦った。
食器も片付けてないし、洗濯物も取り込んでない。色々と段取りがあるのだ。
「だから相手にも都合があると言っているでしょうユナ、座りなさい。」
アルベイルがやんわりと言ってくれて助かった。
ユナカイトは首をかしげつつも、とりあえず座った。
まるで飼い主と犬のようだ。
「…ユナ、まさか夜の事は話してありますよね?」
「すいません、アルベイル様…夜の事とはなんの事ですか?
もしや誰か来るのですか?
夕食はいらないと聞いていたんですが変更になったのでしょうか?」
アイリはおもわずアルベイルに尋ねた。
会話を遮るのは失礼だと分かっていたが、誰か招いての夕食には仕込みがかかる。
今から準備するとなると一分一秒が惜しかった。
瞬間、
ユナカイトがふっとんだ。
「痛いし危ないだろう、アル。」
確かに壁に激突したと思ったのに跳ね返って立ったユナカイトがぼやく。
脇腹をこすって苦悶の表情だ。
アイリは訳がわからなかった。
「アイリ、大丈夫ですよ。
私がちょっと裏拳で横腹を殴り飛ばしてやっただけです。
ユナは頑丈なので問題ありません。
ユナも殴り飛ばされた勢いを殺しつつ壁に手をつきその反動で立ち上がっただけです。」
温厚そうな笑みを浮かべてアルベイルが説明してくれた。
「…ア…アルベイル様は…けっこう力あるのです…ね。」
顔をひきつらせたアイリはなんとか言葉を返す。
内心そういう問題ではないと思いつつ。
ユナカイトが強いのは知っていた。
しかし、副官のアルベイルはどちらかといえば文官よりのイメージがあったのだ。
温厚そうでなおかつ貴族らしい優美さも兼ね備えた腹黒でユナカイトで苦労をしている人…というのがアイリの印象だったが、一瞬で砕け散った。
成人男性、しかも鍛えている人間を殴り、文字通り飛ばす事ができるほどの怪力。
ユナカイトと並ぶ化け物級の実力者に違いない。
「ふふふ、ユナと付き合ううちに自然とこうならざるえなかったんですよ。
他よりは元々力はありましたが…色々としでかすユナを回収したり捕まえたりするうちに…ね…」
アルベイルは遠い目をしている。
ユナカイトで苦労をしているのには変わり無いらしい。
「あれ、言ってなかった?
今夜は隊員の慰労会で一緒に連れていくから夕食はそこで食べる事になってるんだよ。」
言っていない。
アイリが口を開くより速くアルベイルが移動し、ユナカイトに腹パンをおみまいし、痛みで踞った背を踏みつけて微笑んだ。
「…だから、事前に話せと…あれほど…」
アイリは立ち上がった。
食器やら洗濯物を片付けるために。
アルベイルに軽く礼を取り部屋を後にする。
背後から言い訳にもなってないユナカイト釈明と、それを常識的に諭す恐ろしいまでに優しいアルベイルの声を聞かなかったことにして。
時々聞こえるうめき声やドゴッ・メキャ・バキッといったよく分からない音はすべて聞き流す。
アルベイルの教育的指導時間のお陰でアイリは問題なく仕事を片付けられたのだった。
なおかつ学校への手続きもアルベイルが主に進めていったおかげで問題なく終わった。
「アルベイル様は素晴らしいですね!ありがとうございます!」
アイリが言うとユナカイトはしょんぼりした。
「俺もつつがなく手続きぐらいはできるよ?」
「やれてもやらない、後回しが基本のユナは信用が正直ないと思いますよ。」
「そ、そんなこと無いよね!?アイリ!」
こちらを見るユナカイトからアイリは目をそらした。
そして学校でもらった教本に目をやり明日から訪れる新生活に思いを寄せた。
泣きそうなユナカイトは放置であった。
次回は突撃、隊員の慰労会!予定です。




