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ザ・シークレット・アパートメント ~俺と四人の美女のヒミツの関係~  作者: 安井優
4. 家族のカタチ

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4-2.次はあんたの番

 鈴は気持ちを落ち着かせるようにパフェをひと口食べ、お茶を飲んだ。息をはき、ようやく心づもりができたのか、カップを脇に寄せる。


反響定位(はんきょうていい)ってわかる?」


 訊かれて俺は「いや」と否定する。


「漢字すらわからん」


「じゃあ、エコーロケーションは?」


「んー……、聞いたことあるような、ないような?」


 俺の反応に鈴はわざとらしくため息をついた。冷たいというよりも憐れみのような視線を向けられ、俺は「バカで悪かったな」と悪態を返す。


「ま、いいわ。簡単に言えば、コウモリとか、イルカが持ってる能力と同じなの。音が反響するのがわかるっていうか……、反響した音で、ものの場所とか、大きさとか、そういうのがわかるって感じ」


 鈴はカップに角砂糖を落とした。ポチャン、と音がして水滴が跳ねる。


「つまり、鈴は音を聞けば、なにがどこにあるかわかるってことか?」


「だいたいね。完璧には無理だけど」


「それじゃ、歌を歌ったのも……、ストーカーの場所を特定するため……」


 俺が納得すると、鈴は今しがたいれた砂糖をスプーンでかきまぜながらうなずく。


 なるほど、と真意を理解する。わかってようやく、そういえば、と俺は思い出した。


 鈴のライブパフォーマンスは、たしかにその能力を裏付けるような動きが多かった。メンバーのミスをそれとなくカバーし、フォーメーションのバランスを保つ。ステージを俯瞰的に見ているような動きは、完璧な空間把握能力のおかげだったのか。


「すげぇな」


 俺の感心に、鈴は顔をしかめた。他意などない、ただのほめ言葉なのに。鈴の反応を不思議に思っていると、鈴が悔しそうに呟く。


「アタシの実力じゃないし」


「でも、鈴が生まれ持った才能だろ? それに、使えるもんは使ったほうがいいじゃん」


「……わかってる。だから、存分に利用してるの。でも、結局そのせいでみんなから叩かれたりもするし。全然すごくなんかない」


 鈴はきっぱりと言い切ってカップのお茶を飲みきると、「あんたこそ」と俺を見つめる。


「特別な才能なんかないほうがいいって、思ったことない?」


「え」


 俺のヒミツは誰にも話していないはずなのに、まるで鈴は俺のヒミツを見透かしているようだった。硬直すると、鈴がフッと意地悪な笑みを浮かべる。


「やっぱり。あんたにもあるんだ」


「……カマかけたのか」


「引っかかるほうが悪いのよ。だいたい、アタシばっかり喋ってちゃ不公平でしょ」


「勝手にしゃべったんだろ」


「そっちが聞いてきたから答えただけ。それに……」


 鈴は急に視線を俺から外すと、ボソリと呟いた。


「家族、でしょ」


 聞き間違いかと思って、俺が鈴を凝視すると、鈴の頬がほんのりと赤く染まっていく。そんな鈴を見ていると、自分で言って照れるなよ、と俺もこそばゆくなる。


 だが、鈴から『家族』と言ってもらえるとは思わなかった。


「ツンデレめ」


 俺がからかうと、鈴が「違うわよ!」と顔を真っ赤にして怒る。どう考えても、その反応はツンデレの極みだろう。声をあげて笑うと、鈴はいよいよふてくされた。


「おーい、鈴やぁ、悪かったってぇ」


 許してくれよ、と頼みこむも、鈴はフンと視線を合わせてはくれなかった。それでも、本気で怒っているわけではなく、どちらかといえば、ヒミツを打ち明けたことで、俺の態度が変わらないかを試しているような仕草に見える。


 ヒミツを打ち明けるのは怖い。特に、人並み外れた特別な才能を打ち明けるのは。


 でも。俺は鈴を受け止めるぞ、絶対に。両腕を広げて見せれば、チラとこちらを窺った鈴は呆れたように笑う。


「さ、次はあんたの番」


 鈴はパフェを空にしたスプーンで俺をさした。いっけん行儀悪く見えるその行動でさえ、様になるのだから見た目がかわいいというのはずるいと思う。


「……俺の番、か」


 家族から『化けもの』と呼ばれ、家族を崩壊させた俺が、またそのヒミツを話すなんて想像もできない。一度は、こんな力なんかいらないと、自らの能力を呪っていた俺が。


 ――できるだろうか。この力を受け入れ、みんなに打ち明けることが。


 助けをこうように鈴を見れば、鈴はスプーンをおろして自信満々にうなずいた。


「できるわよ、あんたなら」


 鈴は立ちあがり、俺の手元に置かれていた伝票を自然な手つきでそれを取る。


「じゃ、お会計してくるから」


「え? いや、さすがに自分で……」


「いいの。アタシのおごりだから」


 鈴はそう言うと、俺を置いてレジへと向かう。だが、数歩先でなにかを思い出したように足を止めると、くるりと振り返った。


「……助けてくれて、ありがと」


 小さな声でぶっきらぼうに放たれたお礼が、俺の鼓膜を心地よく揺らす。


 鈴は「じゃ」と俺に背を向けて歩調を早めた。


「あ、おい、ちょっと!」


 俺は、彼女の歩調に合わせてふわふわと楽しげに揺動するツインテールを追いかける。


 彼女の小柄ながらもピンと伸びた背は、いつもより少しだけ大きく見えた。

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