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ザ・シークレット・アパートメント ~俺と四人の美女のヒミツの関係~  作者: 安井優
3. 追想の決着

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3-5.二回目の作戦会議

 みく姉が俺たちを招集したのは、作戦会議から二週間が経とうとしていたころだった。


 俺も鈴も硝子さんもみな春休みに突入していて、二回目の作戦会議……、もとい、ストーカー捕獲会議は昼のうちから開催された。


「視たで、夢」


 開口一番、みく姉は興奮冷めやらぬ様子で切り出した。みく姉自身も驚いているようで、「ほんまにこんなことあるんやなぁ」とまるで他人ごとみたいに呟く。


「どうしても鈴ちゃんの夢が視たいと思ってな、枕の下に鈴ちゃんのチェキ入れてみたり、寝る前に鈴ちゃんの曲聞いたりしとったんが功を奏したんやね」


 珍しく早口でまくしたてるみく姉に、俺も、鈴も、思わずキモイと言いかけた言葉を飲みこむ。今はそんな話をしている場合ではない。


「どんな夢?」


 冷静な硝子さんの声が、みく姉に落ち着きを取り戻させた。みく姉は「ああ、そうや」と夢の内容を語る。


 夕暮れどき、私服姿の鈴が商店街のような細い路地をひとり歩いている。すぐそばに公園があり、木々には梅の花が咲き始めていた。


「それを眺めとった鈴ちゃんが、歌い始めたんよ」


「歌?」


 突然のことに、俺はついツッコミを入れてしまう。それまでリアリティがあっただけに、急に歌などと言われては、予知夢の信頼性がさがる。


「アタシが?」


 鈴も信じられない、と眉間にしわを寄せたが、みく姉は「そんなこと言われても……」と苦笑し、続きを話す。


「んで、歌っとったら、そのうち男の人が近づいてきて鈴ちゃんに声をかけはってん。そのあとは、鈴ちゃんが走っていっておわり。わたしの目が覚めてしもうた」


 みく姉が話し終えると、鈴が悪寒に体を震わせた。急にリアルな話に戻って、近い将来、起こるであろう事件を想像したのだろう。自らの肩を抱くように、鈴は両手で体をひしと抱きしめる。


「やば……、なんかマジリアル。ね、みく姉、その男の顔って覚えてない?」


 みゃーこの質問に、みく姉は力なく首を振った。


「顔はあんまり見えんかってん。黒い帽子と黒いリュック、服もズボンも靴も、とにかく全身真っ黒やったわ」


「それだけじゃ弱いな……」


「じゃあ、場所は? その公園とか、商店街っぽい路地とか」


「わたしは知らん場所やった」


「もう少し具体的に教えてくれたら、絵に描けるかも」


 硝子さんがカバンからスケッチブックを取り出す。俺たちはたしかに、と満場一致でうなずいて、みく姉が覚えている特徴を整理していく。


 車が通れない程度の道幅で、商店街のような雰囲気。人はそこそこ行きかっている。鈴がいたのはちょうど丁字路になったような場所で、角に公園がある。公園は結構広かったように思う、とみく姉は脳内で予知夢を必死に再生する。


 公園には梅の木が生えている。遊具はなく、一面芝生が敷かれている。ベンチがいくつかあるだけの広場のような場所。公園の向かいにはカフェがあり、ガラス張りの入り口で、洋菓子を並べるようなショーケースがあるという。


「鈴ちゃんは、住宅街みたいな方向からその商店街に向かって歩いてきて……」


 とみく姉が最後まで夢の内容を絞り出したところで、硝子さんが手を止めた。


「こんな感じ?」


 スケッチブックに描かれていたのは、たしかにみく姉の言ったとおりの道だ。だが、俺もみゃーこもピンと来ていない。唯一夢で視ているみく姉が「あっ」と正解らしき反応を見せただけで、鈴ですらその場所に覚えがないようだった。


「なんていうか、どこにでもありそうな雰囲気だよね」


「鈴が知らない場所なら、特定のしようもないしな……」


 俺たちがうなっていると、硝子さんがなにかに気づいたのか、じっと絵を見つめる。


「……梅」


 ボソリと呟いた硝子さんは、スマホを操作すると、今度は「やっぱり」と画面を見つめた。


「梅が咲いてたんだよね」


 硝子さんの問いにみく姉がうなずく。桜じゃなくて、梅。


「梅が咲くのは、二月から三月」


「……つまり」


「ストーカーとの接触は、もうすぐにでも起こるってこと」


 硝子さんの名推理に俺たちは顔を見合わせる。普段はツンとすましている鈴の顔にも、さすがに恐怖が浮かぶ。場所が特定できないのであれば、自衛もできない。それなのに、もうすぐ起こってしまうと告げられて、怖くないわけがない。


 どうすれば、と鈴は膝を抱えた。


「鈴にずっと張りついてるわけにもいかないしな」


 この作戦は全員の協力なくしてはどうにもならない。俺とみゃーこはともかくとして、春休みといえど硝子さんには大学のサークル活動があるし、みく姉には町の会合なんかもある。それこそ鈴はアイドル活動が忙しい。


 そもそも、鈴は外出が多いのだ。毎週末はライブがあり、各地へ出かけている。


「……ん?」


 ライブ……。各地のライブ会場に、鈴は毎週末出かける……。


「鈴! 週末にライブってどれくらいある?」


「な、なによ、急に」


 言いつつ、鈴はすぐさまスマホを操作する。カレンダーアプリを立ちあげた鈴は、みんなにその予定表を見せた。


 週末は朝から夜までライブやレッスン、動画配信などスケジュールが並んでいる。特に、春休みで時間のとれる三月はライブも多くなるのだという。


「この中で行ったことがない会場は?」


 俺の質問に、ようやく鈴も意図がわかったのだろう。目を見張り、スケジュールに書かれたライブ会場の場所を次から次へと確認していく。


「あ、あった! ここ……」


 鈴が見せてくれたのは、都内の小さなライブ会場だった。最寄りの駅名は、鈴をはじめ、俺たち全員、聞き馴染みがない。


「もしかして……」


 俺はすぐさま自分のスマホでマップを開く。ライブ会場の名前を打ちこみ、駅周辺の地図を拡大すると、駅からライブ会場へと伸びる商店街の名前が表示された。


「ここだ!」


 近くに公園もある。公園の道向かいは洋菓子屋だ。ライブ会場は商店街を抜けた住宅街の先にある。地理的には、みく姉が視た夢とほぼ一致する。


 ライブの日は、十日後に迫っていた。


「この日は昼公演があって、そのあとにチェキ会なの。それが終わったら解散だから……」


「公園のあたりを通るのはちょうど夕方!」


 すべてそろった。みく姉の予知夢は、間違っていない。ストーカーは必ずこの日に、鈴に接触する。


「よし、作戦決行だ!」


 俺たちは、誰ともなく「やるぞ」と手を重ね合わせる。


「ストーカーなんかに負けない!」「絶対捕まえる!」とそれぞれに想いを告げる。


「えいえいおーっ!」


 俺たちは重ねた手を一斉に高く掲げた。

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