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ザ・シークレット・アパートメント ~俺と四人の美女のヒミツの関係~  作者: 安井優
3. 追想の決着

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3-2.腹が減ってはなんとやら

「りんりーんっ!」


 みく姉の家の玄関を開けると同時、みゃーこが鈴に向かって飛びついてきた。鈴はそれをまるで予知していたかのように華麗にかわして靴を脱ぐ。


「あかね、うざい」


「えぇ~! だって、話聞いたらいてもたってもいられなくなっちゃうじゃん!」


 みゃーこが泣きそうな顔で鈴をひしと抱きしめる。今度は素直に接触を許しているあたり、先ほどの体当たりを避けたのはわざとだったようだ。ある意味、この絶妙な距離感が、鈴とみゃーこのコミュニケーションなのかもしれない。俺はみゃーこにさせたいようにさせている鈴を置いて、靴を脱いだ。リビングへと続く扉から、硝子さんも心配そうな様子でこちらを窺っている。ふたりとも、すでにみく姉からあらかたの話は聞いているようだ。


「大変だったね」


「いえ、むしろ硝子さんにまで迷惑かけちゃって」


「私はいいけど……。鈴ちゃんは平気?」


 硝子さんが鈴をじっと覗きこむ。さすがの鈴も、硝子さんの真剣さはぞんざいに扱えないらしく、ありがとうございます、と丁寧に腰を折った。背中に覆いかぶさっていたみゃーこがその反動でずるずると床に滑り落ちる。


 鈴は硝子さんに導かれるまま、みゃーこを引きずってリビングに入り――、ピタリと足を止めた。


「どうした?」


 俺が後ろからリビングを覗くと、そこには見たことのある男の姿。


「あ、え?」


 ピザ屋のオカマ店長が「どうもぉ」とにこやかに手を振る。


 俺が驚いていると、みく姉が「おかえり」と俺たちをリビングへと誘う。真ん中のテーブルにはいつぞやの歓迎会を思い起こさせる量のピザや食べものが並んでいた。


「あら、鈴ちゃん久しぶりじゃない! それに、えーっと……真琴くん、だっけ?」


「店長、ご無沙汰してます」


「お久しぶりです……っていうか、店長はなんでここに?」


「まぁまぁ、まずはご飯にしよ。話はそれから。腹が減ってはなんとやら、やよ」


 みく姉がポスポスとソファを叩く。硝子さんやみゃーこはすでに定位置があるようで、そそくさとテーブルに着いた。俺と鈴は空いているソファに座る。


「それじゃあ、みなさん、手を合わせて」


 みく姉が言うのに合わせて、俺たちは自然と「いただきます」と声をそろえる。思い思いにピザや食事を手に取って……、


「って、んなわけあるかい!」


 俺がツッコむと、みく姉たちが奇妙なものを見る目で俺を見る。おい、俺がおかしいみたいな顔で見るな。っていうか、一番この場に不釣り合いなピザ屋の店長が、この子やばい、みたいな顔をするな。


「作戦会議は!? ストーカー、捕まえるんだろ?」


「それはそうやけど……焦ったってなんにもならんし」


「そうそう。それに、暗い話になっちゃってもさ。どうせなら、明るい雰囲気でやるほうがよくない?」


「うん、私もそう思った」


「真琴くん、せっかちは嫌われるわよ」


「いや、だから、店長はなんでここにいるんすか」


「呼ばれたからに決まってるじゃない」


「呼ばれた?」


 俺がみんなを見回すと、鈴だけが知らないと首を横に振り、残りのメンバーはこれも作戦のうちだと言わんばかりにうなずいた。


「てんちょ、オカマだけどぉ、見た目は一応男だし!」


「鈴ちゃんのことも知ってるし、ストーカー捕まえるんやから、ちょっとでも人数は多いほうはええやろ?」


「なにかあっても、囮にする」


「硝子ちゃん、それは勘弁して」


 みんなは店長をなんだと思っているのだろう。そう思うものの、たしかにこの人がいれば心強いかもしれない、とも感じる。悲しいかな、俺も男とはいえ未成年だ。できることには限りがあるし、俺自身、体格がいいほうでもない。その点、店長は体格が無駄にいい。


「まあ、鈴がいいならいいけどさ」


 俺が鈴を見れば、鈴は「逆に申し訳ないんだけど」と顔をしかめつつ、


「ありがとうございます」


 と小さく礼を述べた。どうやら、ストーカーの件は鈴も相当まいっているらしい。一刻も早い解決を求めるために、使えるものはなんでも使うしかない。鈴はそう決めたようだ。


「で、作戦会議って?」


 俺もピザに手を伸ばしつつ、こらえきれずに話題を戻す。と、みく姉の顔つきも真面目なものに変わった。


「まずは、発案者であるまこちゃんの案を聞こかな。みんな、いい?」


 みく姉の確認は、ヒミツに触れないわけにはいかない、それを今ここで話してもいいか、そんな問いかけに聞こえた。みゃーこと硝子さんもそれを察したのか、食事の手を止めて背筋を伸ばした。


「うん、うちは全然オッケー! てんちょにも話したことあるし」


「私も大丈夫です」


 ふたりの肯定を見届け、俺は「それじゃあ」と口を開いた。

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