表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・シークレット・アパートメント ~俺と四人の美女のヒミツの関係~  作者: 安井優
2. 俺たちのヒミツ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/48

2-11.うちのヒミツ、教えてあげよっか?

「お、お邪魔しまぁす……」


 遠慮がちに足を踏み入れる。みゃーこの部屋は柑橘の爽やかな香りがして、俺の心臓を刺激する。みゃーこから依頼されたとはいえ、ひとり暮らしの女子の部屋に俺があがってもいいのだろうか。


「あっ、もしかして照れてるぅ?」


 戸惑う俺の心を見透かすように、みゃーこが俺にすり寄った。


「て、照れとか! そういう問題じゃ……」


「うちはいつでも大歓迎だよ?」


 みゃーこが俺の腕をぎゅっと抱く。胸が! 胸が当たっております、お嬢さん!


「ととと、とにかく! 今は掃除だろ!」


 煩悩を追い払うようにみゃーこから離れ、勢いよく玄関をあがる。廊下を進んだ先、ベランダに面したリビングにガラスは散乱していた。


「ひどいな……」


 俺がしゃがむと、みゃーこも隣に並んでガラスを拾い始める。


「ちょ、危ないから」


「へーき、へーき! うち、こういうの慣れっこなんだ」


 ガラスの片付けに慣れている人間なんか聞いたことない。俺が顔をしかめるも、たしかにみゃーこは手慣れた様子でひょいひょいとガラスを拾いあげていく。彼女は特に大きな破片を集めると、これまた慣れた様子で立ちあがった。


「あ、袋とか掃除機とか持ってくんね」


 本当に手慣れているのか、声色もさっぱりと爽やかだ。強がっているわけではないらしい。


 そこからのみゃーこの行動は早く、俺の手伝いなどいらなかったのでは、と思うほどだった。


 みゃーこは女性向けの雑誌を惜しげもなくちぎってガラスを包み、袋に入れる。彼女の手にはしっかりと軍手がはめられており、俺にはホウキとチリトリが与えられた。みゃーこに指示されるまま掃除が終わると、彼女は素早く掃除機をかける。


 あっという間に床が綺麗になった。


「窓はさすがに直せないよな」


「ふっふーん、なめてもらっちゃ困るよ、まこちゃん」


 俺のセリフを待ってましたと言うように、みゃーこが胸を張る。ネット通販の段ボールをどこからともなく持ち出してくると、手際よくそれを窓ガラスに貼り付けていく。もちろん、養生テープも常備されていた。


「まじか……」


 ものの一時間とかからず、窓は簡易的に修理された。窓ガラスを割られて平気な人間がこの世にいるのかと思ったが、どうやらみゃーこは唯一の人間なのかもしれない。


「すごいな」


 すっかり感心する俺をよそに、みゃーこはみく姉に事情を連絡し、修理業者の手配まで完了させていた。


 みゃーこはスマホをしまうと、俺にドヤ顔を向ける。


「意外と生活力あるっしょ?」


「うん。まじですごい。てか、ほんとに意外だったわ」


 ガラスなんて怖くて触れない、無理! と叫ぶ姿を想像していただけに、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。


「えへへ、でも、まこちゃんが手伝ってくれてよかったよ。いつもより早く終わったし、ひとりでやるの、やっぱ辛いからさぁ」


 それが俺を誘った理由か。……ん、待てよ?


「いや、いつもって……そんなに割れんのかよ」


「ん~、三か月に一回くらい? かなぁ?」


「はぁ?」


 みゃーこは真剣な顔で「まじだって」と念を押した。


「ここに引っ越してきてからは、これが初めてだけど……。前のアパートのときとか、ガラス割れるだけじゃなくて、給湯器壊れたり、壁に穴が開いたり、あー、雨漏りとかもあったし」


 指折り数えるみゃーこの姿が痛ましく、俺は思わず「もういい」と制止する。


「さすがに波乱万丈すぎる」


 俺も人のことを言えた義理ではないが、みゃーこの経験を考えると頭が痛くなりそうだ。少なくとも俺なら一個で充分。もうお腹いっぱいである。


「ていうか、それでこれだけポジティブに対応できんの、すげぇよ。人間できすぎだろ」


 素直に本音を漏らせば、みゃーこが虚を突かれたように俺を見る。


「……優しいんだね」


 ポツリとこぼされた声には、なぜか少しの哀愁が滲んでいた。


「い、いや、別に。本当のことだろ」


「まこちゃんは、優しいよ」


 みゃーこの笑みは、いつものように明るいのに、それでいてどこか悲しげだった。


 どう反応するのが正解か、わからなくなった。俺が固まっていると、


「じゃあ、そんなうちにご褒美、ちょうだい?」


 愛嬌たっぷりの猫なで声でみゃーこが再び俺にすり寄る。それは多分、この空気をいつもの雰囲気に戻すためのからかいだったはずだ。だが、無防備だった俺はあとずさってしまった。


「うわっ!」


「まこちゃん!?」


 かかとがソファにぶつかり、俺はそのまま体勢を崩す。気づいたら背中からソファになだれこんでいた。


 目を開け、こくりと喉が上下した。


「……っ」


 唇が触れてしまいそうなほどの距離に、みゃーこの顔がある。みゃーこはにんまりと口角をあげる。オレンジの髪がキラキラと反射して、俺の視界を覆う。反射的に目を閉じると、ルームフレグランスの甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。


「ねえ、まこちゃん」


 みゃーこの声が全身をビリビリと駆け巡る。


「うちのヒミツ、教えてあげよっか?」


 その声色は、やっぱりどこか切なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヒミツたくさんの不思議なメンバーですが歓迎会で無事に受け入れられて良かったです! そして新たな冤罪疑惑が!無実であることが分かって良かったです。何でガラスが割れたのか、今までも他の物が壊れたのかヒミツ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ