<番外編>はなれたくない
リリカとウィルジアが病院での事件を解決し、王宮から屋敷に戻ってきてしばらくしてからのこと。
リリカの手により屋敷が再び綺麗になり、一息つく頃合い。
リリカはサロンのソファに座って、せっせと編み物をしていた……のだが。
「あの、ウィルジア様……」
「何だろう」
「この体勢は一体……」
リリカはウィルジアに背後から抱き抱えられるようにして座っていた。それももう、かれこれ一時間はこの状態である。
ウィルジアはリリカの疑問に答えるかのように、リリカの腰の辺りに手を回すとぎゅっと抱きしめ、肩口に顔を埋めて言う。
「リリカとはなれたくなくて」
「密着しすぎではないでしょうか……」
「んー。でも、リリカとゆっくりするの久しぶりだし」
答えになっているようないないようなことを言いながら、ウィルジアはさらにリリカの腰に回した腕に力を込めた。
どうすれば良いかわからないリリカは、「あうう」と情けない声を出し、手元に集中しようと視線を落とす。が、無理そうだった。
最近ウィルジアは忙しくしている。
新たな目標ができたウィルジアは、やることがいろいろあるらしく、屋敷に帰る時間が遅くなっていた。休みも少ない。なので確かにゆっくりするのは久々で、そしてお疲れのウィルジアの好きにさせてあげたいという気持ちがリリカにはある。
あるのだが、それはそれとしてこんなにくっついているとちょっと、いやかなり恥ずかしいなぁと思ってしまう。それにずっと見つめられているので落ち着かない。
「ウィルジア様、私が編み物しているの見ていて楽しいですか?」
「うん。楽しい。リリカ、なんか物凄い複雑な模様を編んでるけど、一体何作ってるんだい?」
「ウィルジア様のマフラーです」
「えっ」
ウィルジアの声がこわばった。
「昨年の冬に雪が降って寒かったので、今からマフラーを作っておこうと思いまして」
「僕のために作ってくれてるの?」
「はい」
リリカはコクリと頷いた。
昨年、王都は二年ぶりの積雪に見舞われ、リリカとウィルジアは屋敷が陸の孤島と化さないよう二人で雪かきをした。その時のウィルジアは外套一枚を羽織っていただけなので、さぞかし寒い思いをしただろうと思い、今年の冬は暖かく過ごしてもらいたいと考えてこうして寒くなる前にマフラーを編んでいるのだ。
背後からウィルジアのくぐもった声がする。
「嬉しい。リリカありがとう。今年も雪が降ったら、去年より役に立てると思うから」
「去年のウィルジア様も、十分力になっておりました」
「ははは……」
乾いた笑いを漏らすウィルジアは、自分が役に立ったとは思っていなさそうだった。リリカは顔を横に向け、至近距離に見えるウィルジアの緑色の瞳を覗き込んだ。
「信じていらっしゃいませんね?」
「だってエド兄上に鍛えてもらう前までの僕、脆弱すぎたから」
「そんなことございませんよ。それに、ウィルジア様と二人で雪かきするのは楽しかったので。……まさか公爵様が雪かきすると思っていなかったので、びっくりしましたけど」
リリカは当然、一人で王都まで雪かきしようと思っていたのだが、まさかのウィルジアが手伝ってくれるとなりとても驚いた。まだ働き始めて一月くらいしか経っていなかった頃だし、止めても聞かない主人に焦ったものだ。
その時のことを思い出し、見つめあっていたリリカとウィルジアはどちらからともなく笑い出した。
「今年雪が降ったら、僕が先導するよ」
「危ないので私が先を行きます」
「ダメだよ。僕が行く」
「えぇー」
二人でくすくす笑う。
「……今年も雪、降るかなぁ」
「降ったらいいですね」
「うん」
子供みたいに雪が降るのを待ち侘びながら、リリカはウィルジアに抱きしめられたまま、編み物を再開した。
お知らせ①
万能メイド2巻が10/2に発売予定です。
エドモンドおにーさまが出てくる章の展開が変わっていたり、ウェブの6部と外伝の間の章などを書き下ろしています。
部数がかなり絞られてしまったので店頭にどのくらい並ぶかわかりません。
確実に欲しい方は予約をおすすめいたします……!
電子の予約はまだ始まっていないようです。
お知らせ②
本作は「このライトノベルがすごい!」の対象作品となっていますので、ぜひ投票をお願いします。
回答期限は9月23日(月)23:59なのでもうすぐだ!
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お知らせ③
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