王妃様のお茶会
ウィルジアを仕事に見送ったリリカの元に、王妃様付きの侍女がやってきた。
「本日ですが、王妃様がぜひリリカお姉様と一緒にお茶会がしたいとおっしゃっておりまして。ユーフェミナ様も同席して、三人でどうかと」
そういう予定であるとは前日の夜にウィルジアより聞いてはいたが、いざ王妃様付きの侍女から聞かされると尻込みしてしまう。申し訳なさが先に立つ。
「私が王妃様とユーフェミナ様のお茶会に参加していいのですか? 給仕だったら、喜んでさせていただくんですけど……」
「ぜひにとおっしゃっておりました」
「では、喜んでお伺いさせていただきます」
「はい。王妃様にそうお伝えいたします」
王妃様とユーフェミナ様とのお茶会に同席できるなんて、夢みたいだわとリリカは思った。全く想像だにしていなかったし緊張しないといえば嘘になるが、それより楽しみな気持ちの方が強い。
昼の少し後に招かれたお茶会には、聞いていた通り王妃様と一番目の王子ハリエットの妻であるユーフェミナがいる。
「あらぁ、リリカ、久しぶりね! 会いたかったのよ!」
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。王宮に滞在しているにも関わらずご挨拶が遅れて大変申し訳ありませんでした」
リリカが王妃様付き侍女の教育をした時に散々お邪魔した王妃様専用のサロンに、今回は使用人ではなく客として招かれ、完璧な淑女の礼をとってエレーヌに挨拶をした。
王妃様は相変わらずご機嫌な様子でリリカに話しかける。
「いいのよぉ。リリカのせいじゃないもの。ウィルったら一昨日、帰ってくるなりものすごい剣幕で『リリカを丸一日は休ませたいから、絶対に呼びつけたり顔を見せたりしないこと』って私と夫の前で言うものだから、頷くしかないじゃない?」
「今回はとてもよく働いたと聞いていますわ」
エレーヌがウィルジアの真似をして、ユーフェミナがリリカを労ってくれた。
薦められるがままに席についたリリカは、国で最上位に位置する王妃様と、王太子妃であるユーフェミナと同席している自分の状況が改めて不思議だった。
なんで私、ここに座っているんだろう。
出される紅茶を飲みながら、紅茶美味しいなと思った。きちんと淹れられていて何よりだ。
「それで、ずぅっと聞きたかったのだけれど、あの子の見た目を整えたのもリリカなんでしょう? どれだけ言っても頑なに首を縦に振らなかったあの子にどうやって髪を切らせたの?」
「勢いでしょうか……夜会があるので、ウィルジア様の評判を回復させるためにぜひ見た目から変えていきましょうと説得して、切らせていただきました」
あの時のウィルジアは、リリカの勢いに押されて頷いたと言っても過言ではないのだが、ともあれイメージチェンジには成功した。
ユーフェミナが紅茶のカップをソーサーに戻しつつ尋ねてくる。
「今でもリリカが切っているの?」
「はい、月に一度くらいの頻度で散髪しています」
ウィルジアの髪が元のモサモサに戻らないよう、リリカは細心の注意を払いつつ定期的に散髪を提案していた。おかげさまでいつでも顔が隠れる事なくウィルジアの美貌が晒されているので、リリカはとても満足している。
「仲良いのねぇ」
「ウィルジア様がお優しいので……」
「それだけじゃないわよぉ。あんなにも誰にも心を開かなかったあの子がこうまで変わるなんて、本当にすごい事なのよ? リリカあまり自覚してないでしょう」
「私は特に何もしていないので……ウィルジア様がどんどんと素敵になっていくなぁと思いながら、そばでお支えしているだけです」
「あら、無自覚なのねぇ」
エレーヌはユーフェミナと目配せをして、ティーカップの隙間から苦笑を漏らした。
「ま、あの子は無理矢理何かやらせようとしても嫌がって逃げるだけだから、リリカみたいにあの子の全部を受け入れた上で応援してくれるような人の方が相性いいんでしょうね。本当に息子を変えてくれてありがとうね、リリカ。母として礼をいうわぁ」
「そんな、恐れ多いです」
「あら、リリカさん。こう言う時は素直にお礼を言った方が良いと思うわよ」
ユーフェミナにやんわりと諭されて、リリカは落ち着かない気持ちを抱えながらも頭を下げて「光栄です」と言い直した。
お茶会はとても和やかに進んだ。
エレーヌとユーフェミナに流行りのドレスの型やデザインを聞いたり、今王都を賑わわせている宝石商の話を聞いたり、出される茶菓子に舌鼓を打っているうちにあっという間にお開きの時間になる。
「本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「またお茶しましょうねぇ!」
「お屋敷にも是非遊びに来てちょうだいね。カーティスとシュルツも待っているから」
「はい、ぜひ」
リリカはニコッとしてからティーサロンを後にする。
緊張したけれどとても楽しかったなぁと思った。





