武器を購入しました→異常が発生したようです
皆さんこんにちは
元々の予定では二日後に投稿の予定でしたが、取り敢えず水曜までに書きだめしてある分だけでも投稿してしまおうと思い、連日更新に切り替えます
という事で、本日2話目
『第6話』お楽しみください
「ど、どうするんですか‥‥」
「ど、どうしよう‥‥」
「・・・・・」
「・・・・・」
「おい、そこの二人!行くんだったら早くしないと置いていかれるぞ!」
親切な人が教えてくれたが、珱霞達2人には——いや、皇には鹿島にまで行く方法が無いのだ。正確に言えば使えないだけだが、それは置いておく。
「早く決めてくださいね。僕もあまり出遅れたくはないですから」
「‥‥珱霞の自転車に乗せてください」
「何を言っているんだ?流石に危ないだろ」
「昔は厳しかったけど、今は二人乗りに関しての罰則はない。だから、大丈夫」
「僕の自転車電動じゃないんで、2人乗りは普通に厳しいです」
最近の自転車は魔石のおかげで電動の物も増えてきている。しかし、あくまでそれは一般的な収入を得ている家には昔の|自転車《現在珱霞の乗っている物ではなくママチャリ》と同じくらいの値段で買えるというだけで、珱霞の家のような貧乏な家では昔の自転車を買うだけでやっとだ。
「探索者なら大丈夫」
「そう言う問題じゃありませんよ。単純に重さに耐えられません」
「大丈夫。自分で言うのは悲しいけど、私小さいし軽いから。ちょっと重めの荷物を後ろに乗せているだけ」
「‥‥確かに?いや、人間が乗るのと動かないものが乗るのでは違いますよ」
「一人で行って、死なない?」
「うっ……分かりました。乗せますよ。じゃあ来てください。他の人は大体車なので、結構飛ばしていきますよ」
「ありがとう」
皇を後ろに乗せた珱霞は、いつもよりもスピードを上げて自転車を漕ぎ始めた。
無駄なものをそぎ落としたロードレーサーにどうやって跨るのかと思ったが、うまい感じにちょっとした出っ張りに足をのせていた。身長同様小さな足が功を奏したようだ。
とは言え、それだけで揺れる自転車に1cmもない出っ張りに足をのせて、延々といるわけにもいかないので珱霞の肩に手をかけた。
「ん。大丈夫」
「じゃ、行きますよ」
珱霞はそう言って自転車を漕ぎ始めた。
~15分後
「し、死ぬ!本当に危ないから!」
皇は数分もしないうちに出っ張りから足を離してしまい、現在は珱霞の肩にぶら下がっている状態だ。
珱霞の肩にも並々ならぬ負担がかかっているが、探索者になってレベルが上がったおかげかそこまで負担にならなかった。
「だったら早く出っ張りに足かけてくださいよ!?」
「いや無理だから!身体後ろに流れちゃっているから!」
珱霞は後ろの状態が見えているわけでは無い。先程から車から変な目線で見られている感じはしていたが、皇が後ろに旗のように流れていたからだったとは。
だからと言って、それだけのために止まっている時間はない。
もうすでに1時間を過ぎているのだ。何時何時氾濫が開始してもおかしくはない。
「じゃあ、スピード緩めるので、自力で跨ってください」
「わ、分かった」
スピードを20km程落とし、皇が出っ張りに足をのせるのをまつ。
とはいえ、プロの平均速度よりは出ているので、遅い訳では無い。
「のっけたよ」
「じゃあ、今度こそ足離さないでくださいね」
思い切って前に座らせるかとも思ったが、流石にそれは難しい。ママチャリなら、かごに乗せることもできたが、ロードレーサーにはかごがついていない。
考えても仕方がないので、思考するのをやめ自転車を漕ぎだした。
10分後、珱霞達は鹿島迷宮へと辿り着いた。
「はい、着きましたよ…大丈夫ですか?」
珱霞の肩から手を離し、地面へと降りた皇は両手両膝をついて項垂れていた。
「だ、大丈夫に見える?」
「いいえ、全く。一応聞いてみただけです。こういう時は訊いておくものですよね」
「いや、そこは・・・普通に心配して欲しかった…」
「“大丈夫ですか?”は、一応心配しているように聞こえませんか?」
「それはそうだけど‥‥まあ、いいや。まだ氾濫は起こってないみたいだね」
「まあ、まだ1時間と20分ほどしか過ぎていませんからね。予定より少し遅い程度では?」
「まあ、まだ起こってないならいいけど。一応ランクは1つ上に上がるからね」
「レベルは変わらないのでは」
「実力の問題じゃなくて数の問題だよ」
「狭い場所じゃないことが理由ですか?」
「うん。時稀にボスが上位種になっていることがあるけど、それは無いことを願うよ。君、運はいい方かい?」
「どうでしょうね。多分悪い方だと思いますよ。不運なことに、家族選びから失敗していますからね」
「そ、そうなんだ。じゃあ、出てくることも考えて魔力を使うようにしないとね」
「魔物が出てきたぞ!!」
前の方にいた男の叫び声と共に、氾濫が開始した。
「始まったね。しばらくは後ろの方に居て、前の人で怪我した人がいたら変わって行こう」
「交代でやるんですか?」
「まあ、どれだけ時間がかかるか、分かったものじゃないからね。出来る限り疲れや怪我は少ない方が良い。それに、人数を大きく減らすのは避けたいよ」
「数の暴力に対抗するのに必要なのは、あくまで質ですか。攻城戦は3倍の人数が必要と言われていますが、今回の場合は3倍が同時に襲って来る訳じゃないですから、同数対同数を繰り返せば勝てますかね」
「私も他の人の実力が皆分かる訳じゃないけど、今回はそう気にすることもないかな。Bランクが5人位いるね。Cランクも10人はいる。それ以外はDランク。ああ、冒険者の話じゃなくて、潜っている迷宮のランクの話だから」
「じゃあ、僕の役目は早々なさそうかな」
「多分大丈夫。あ、あそこ少し抜けそうだから行くよ」
「意外とすぐにあるんですね。分かりました」
戦闘中だった人たちの一角で怪我をした人がいた。珱霞にも見えてはいたが、即座に判断することができなかった。
経験の浅さもあるだろうが、それ以前に自分の実力で混ざって大丈夫か、と言う疑問がわいたからだ。皇が行くと言った事で決意は出来たが、今も少し心配ではある。
「じゃあ、先に行きますね」
「ん。前衛は任せる」
先程までは少し苦しそうにしていた皇だったが、もう息も整っている。さっきのやつは心臓に負荷がかかったことによる一時的なものだったのだろうか?
そんなことは置いておくとして、珱霞は剣を収納から取り出し、前衛へと出ていった。
「変わります」
「助かる。前にもう一人いる。大楯を持っているやつだ。一人しかいないから俺が抜けたことを使えておいてくれ」
「分かりました。伝えておきます」
前へと出て、大楯を持っている人に先程の剣を使っていた人が抜けたことを伝えた。
剣を使っていた人は、後ろの方へ魔法使いをつれて下がっていった。
「さてと、数は10。僕のすることは足止め。よし、行こうか」
作戦を口に出して呟くと、トップスピードで駆け出した。
「《水針》トリプル。一体に3~4本。魔力の消費量を考えると難しいな。妨害に使うだけにしよう」
珱霞は出てくる狼型の魔物に魔法をあて、1体の妨害に必要な魔法の数を計った。魔力の消費量を考え魔法よりも近接主体で戦う事を決意し、攻撃を開始した。
「狼相手だと少し攻撃をあてる場所が変わるな。今の攻撃力だと急所に当たらないと、まともなダメージは入りそうにないな。受け流してバランスを崩させようか」
一つの基準を定め、珱霞は魔物を後ろへと受け流していく。後ろからは熱を感じるので皇が火魔法で倒しているのだろう。
皇は魔物よりもレベルが高い。一撃でも十分に倒せるだろう。
「あと2体」
一体は後ろへと流し、もう一体は口へと剣を刺して倒した。
珱霞が倒したのは1体だけだが、連携も出来ていたと思う。当初の数よりも3体程多く倒したが、他の所に比べると珱霞達の所へ来ている数は少ない。
特に先程、皇がBランクだと言って指していた冒険者の所に集まっているのが気になったが、大きな意味はないだろうと考えを放棄した。
「珱霞、お疲れ様。一体倒せたね」
「あそこまで口を大きく開けてたら刺すしかないだろう。外皮は僕の攻撃力だと足りないからね」
「ん。分かっているならいいと思う。じゃあ、次はあそこに行く。そう言えばレベルは上がった?」
「確認してみる“ステータス”」
【夜冥 珱霞】
Lv.7
Exp.221/800
HP 210/350
MP 431/600
物攻 29
魔攻 26
物防 20
魔防 16
俊敏 23
運 17
・スキル
武具適性
¦—棍術:レベル1
¦—短剣術:レベル1
¦―剣術:レベル1
魔法適性
¦—水魔法:レベル1
収納:レベル1
鑑定
・称号
小鬼虐殺者
「いや、レベルは上がってなかった」
「でも、経験値はかなり増えていたでしょ」
「ああ。なんでなんだ?」
「相手のレベルが50以上高いと倍になる。あと、そうそうないけど、100以上だと10倍らしい」
10倍と言うのは破格だが、経験値は一定以上の貢献がないと貰えない。今回は受け流してばかりだったが、それも貢献したととられたのだろう。
「でも、剣術のスキルが生えたよ。これで3つ目だ」
「え?まだ3日目じゃないの」
「そうだけど。何かおかしいか?」
「適性何個持ってるの」
「え?2つだよ。武器、じゃなかった武具と魔法だよ」
「本当に言っているの?」
「ん。嘘はついていないよ」
「はぁ。珱霞が非常識なのは分かっていたけど、ここまでだとは思わなかった。普通の武具の適性でもその中から剣だったり槍だったり、その人にあった武具の適性がある。魔法もそう。私の場合は風と火。それ以外にも特殊な属性を持っている人もいるけど、珱霞はそれも含めて入っているからチート」
「チート、か。別にズルなんかしてないぞ」
「ずるをしているとかそう言う問題じゃない。レベルがおかしいという話」
「まあ、いいけどさ。あ、あっちで2人怪我したぞ」
「ん。話はまた後で。まずは助ける」
先程と同じように珱霞は前衛で怪我をした人に声をかけ、場所を入れ替わる。そこの魔物をひとしきり倒した後、後ろに下がり休憩する。それを繰り返して、小一時間ほどが過ぎた。
「全然収まる気配がないな」
「中型だと1時間は持つと言われているけど、1時間過ぎても数が減らないのはおかしい。何かあるかもしれない。支部長に話を訊いてくる」
「僕も行っていいですか?」
「ん。別にいい。珱霞が一人で戦っても、勝てるとは限らない。正直まだまだ無謀なレベル」
「それは分かっていますけど、ぼろくそに言い過ぎじゃないですか」
「ぼろくそに言われるくらいで丁度いい。中途半端にたしなめられて、調子づいたら面倒」
確かに、中途半端なのが一番ダメかも知れないな。探索者は自身の命を担保にして戦っているようなものだ。どんな人間にも命は一つしかない。一度でも負けたら死あるのみなのだ。
「じゃ、行く。ついて来て」
「はい」
「支部長。探索者の方、2名が面会を求めています」
「探索者が?分かった。通してくれ」
「分かりました。お呼びいたします」
「皇様、夜冥様、支部長がお会いになられるそうです。こちらへどうぞ」
秘書のような人についていくと、先には先程協会で話していた、渋めのイケメンがいた。
「君たちが私に面会を求めた探索者かな?私は斑鳩紫門だ。どうぞよろしく」
「皇伽耶。よろしく」
「夜冥珱霞です。よろしくお願いします」
皇はかなり挨拶が雑だが、今時、探索者の挨拶などこんなものだ。逆に珱霞の畏まった挨拶の方が珍しいくらいだ。
「ふむ。君が‥‥おっと、すまない。で、2人は何の用かな?」
「氾濫について訊きたい」
「何か困った点でもあったかな」
「いえ。ただ、1時間以上が過ぎた今でも、魔物の数が全然減らないのはおかしいと思いまして、一応確認に」
「まだ減っていないのか?」
「知らなかったの?」
「ああ。流石に迷宮に直接顔を出す訳にもいかなくてね。様子は部下から聞いていたのだが‥‥部下は細かくは氾濫のことを知らなかったようだ。深く謝罪しよう。心瀬君。本部に異常事態発生の可能性ありと伝えてくれ。それと、直ちにAランク探索者に依頼を頼む」
「分かりました。すぐに準備します」
秘書の人はテントから出ると、外へと駆けていった。
走る速さからすると探索者もやっているようだが、まあ、それは置いておくとして…
「ところで支部長。何で僕のことを知っていたのですか?」
「うん?何の事かな」
「先程僕が名乗った時、“君が”とか言っていたので」
「いや、少し気になっただけだよ。スタンピードから生還したニュービーが、どんな奴なのか、ね」
「そう言う事でしたか。少し気になっただけなので、今はその説明で大丈夫です。信頼できるかどうかは後々判断するとして、今回に限っては信用しておくとしますよ」
「そうしてくれると助かるね。今回の氾濫は、特型の可能性があるからね。少しでも人手が欲しい」
「私も手伝う。特型ならBの可能性もある。そうなったとき、私以外だとまともにダメージを与えられそうな人がいなかった」
「Aランクは?」
「私だけ。他はBランク」
「そうか‥‥」
「僕も出来る限りはやりますよ。まあ、簡単に武器をへし折られる可能性も高いですけどね」
支部長は少し考えるような顔を見せた後、“よし”と言うと、ボスについて説明を始めた。
「ここのボスは“血濡れ狼”。ワイルドウルフの上位種で、灰色の毛並みが血のように真っ赤に染まっているのが特徴だ。ランクはDランク上位からCランク中位に分類されると言われている。基本は物理攻撃型で顎が強く、腕に噛み付かれないように注意した方が良い」
「それなら皇さんの攻撃なら、数発で倒せそうですね」
「そうだな。それで、特型だった場合だが、“血濡れの半狼”となる可能性が高い。ランクはCの上位からAの下位だ。ふり幅が大きいのは魔法の有無に関係してくるが、恐らく今回はBランク中位で魔法なしの攻撃力特化だ。魔法型の皇君はもとより、レベルの低い夜冥は攻撃を食らわないように注意しろ」
「分かりました。絶対に死んだりはしませんよ。両親に罪を償わせるためには、生きていないといけませんからね」
「それならいい。一応言っておくが、無理はするなよ。昔と違ってポーションもあるが、ポーションだって数は限られているんだ。ポーションの出てくる迷宮はボス以外ではBランク以上だ。値段もそれ相応になってくる。腕がちぎられたらAランクのポーションは必要だ。そのランクにもなると最低でも億単位の金が動くことになるだろう」
支部長の顔は先程までとは打って変わって真剣だ。
珱霞も怪我をしないことが一番だが、全く怪我をしないのは無理だと分かっている。骨折までは覚悟していたが、まさか、腕が千切れたりまでするレベルだとは夢にも思っていいなかった。
「はい。分かりました。昔から金に関しては凄い厳しいんです。親がひど過ぎた分、ね」
「そうか。まあ、2人とも気楽に頑張ってこい。しばらく粘ってくれれば、Aランクの冒険者、もしくはSランクの冒険者が駆けつけてくれる。まあ、一時間はかからないだろうから、頑張ってくれ」
「分かりました」「ん。頑張ってくる」
「では、失礼します」
「ああ」
珱霞と皇は頭を下げてテントから出た。
テントから迷宮の前に戻ろうとしたその時、迷宮の方から狼が吼えた様な、それでいて人間のような唸り声が聞こえてきた。
最後までお読みいただき有難うございました
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