第八話
ある日の夕方、今日もパソコンでオンラインゲームのアンドロメダオデッセイにログインした。新しいイベントが今日から始まるみたい。告知は何度か流れていたけど内容はシークレットでどんなイベントなのか分からないままだ。
私のキャラクターであるエストを操作して、いつも通りロビーフロアに移動したが、いつもより走るスピードがゆっくりで違和感を感じた。よく見るとクエストカウンターが大勢のキャラクターで溢れかえっている。動作が重い原因はこれだろうね。
我先にとイベントのクエストを受注しているキャラクター達を見ていると人間の醜い欲深さが伝わってきて嫌な気持ちになった。
暫く様子を見ていると徐々にキャラクター数も減っていき、数人だけになったので、私もクエストを受注してみた。もちろん一人で。
クエストが始まり、転送シャトルから出ると、そこは鉄の壁で四方を囲まれた無機質な空間だった。機械でできたオオカミが五体、エストの目の前に現れた。
「五体も同時かぁ、無傷で倒せるかなぁ」
エストは接近戦は苦手、遠距離の超能力で敵を倒す戦法がメインだ。回復の超能力は全く使えない。素早いオオカミに囲まれないように、距離を保ちながら雷系の超能力で次々と倒していく。いつも一人で戦っているから、この程度は慣れている。
五体のオオカミが壊れてガラクタの破片が部屋内に散らばっている。次は何が来るのだろう……。イベントだからこれだけではないはず。
すると突然、画面に大きく“Joint Struggle(共闘)”と表示され、エストを囲んでいた四方の鉄の壁が一瞬で崩れた。一つの広い空間となり、所々に他のプレイヤーのキャラクターがいるのが見えた。
「えーー、他の人と戦うの? それとも一緒に戦うの? 共闘って一緒に戦うって事だよね……」
私は嫌な気持ちが心の中に広がり、コントローラを握る力が一瞬抜けた。どうしよう……。
崩れた鉄の壁のガラクタと壊れたオオカミのガラクタが何かに引き寄せられるようにフロアの中央に集まり、一つの大きな塊となって何かへと形を造っていく。
私はコントローラを握り直して、いつどこから攻撃されても避ける準備をした。嫌な状況になってもエストだったら逃げない。
大きなガラクタの塊はドラゴンの形へと変化していき、目の部分に電気的な光が灯った。地面が揺れるほどの咆哮の後、薙ぎ払うように巨大な炎を吐きだした。ほとんどのキャラクターはその炎を浴びて、大きなダメージを受けた。
盾を持たないエストも致命的なダメージだったが、体力が一定以上減ると自動的にヒールポーションを使用して回復するスキルを付けているので死なずには済んだ。でも、持っているヒールポーションはあと十七個……、ということはあと十八回ダメージを受けてしまうとエストの負け。
ドラゴンの激しい攻撃の中、他のキャラクターが徐々に減っていった。下手なプレイヤーはすぐに死んで空間から消えていく。
エストは巨大な炎をギリギリで回避しながら、雷系の超能力で戦っている。
三十分ぐらい戦いが続いていたが、ドラゴンはようやく目の光を失い、ガラクタとなって崩れた。エスト以外に残っているのは課金で強い装備を付けたキャラクターが数人。エストもヒールポーションが残り三個しかなかった。これ以上、戦いが続いていると負けていたかもしれない。
広い空間に散らばったイベントクリアの報酬を拾い集めていると、全身に入っていた力が一気に抜けた。良いアイテムをゲットしてると良いけど。
ふと、エストの後をついてくるキャラクターがいるのに気づいた。
他人が操るキャラクターが怖かったので走って逃げた。しかし、そのキャラクターも走ってついてくる。しつこいので気持ち悪いけどエストは立ち止まった。すると、追ってきたキャラクターからのチャットが流れてきた。
「君、強いね。僕たちのユニオンに入らない?」
私は背筋が冷えて、とても嫌な気持ちになった。どこの誰だか分からない他人が操っているキャラクターのユニオンに入るなんて絶対に嫌だ。知らない人と仲良くなんてなりたくない。誰にでも話し掛けるような人は怖くて仕方がない。ストーカーみたいに付きまとわれたらどうしよう。絶対に何かを企んでいるに違いない。私を利用しようとしているに違いない。課金をしていない私を貶めようとしているに違いない。頭の中に不安な予感や嫌悪があぶくの様に次々と湧き出てくる。
何も言わないのも悪いので、私は「ありがとうございます」とだけチャットを打って、そのクエストは終了した。
ロビーフロアに戻っても、さっきのキャラクターと鉢合わせしないように、すぐにその場を去ってゲームを終了した。イベントが終わるまで暫くゲームをしないでおこうかな……。
色々と考えすぎて疲れちゃった。




