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HSP少女はかく語りき  作者: なみだいぬ
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第四話

 ある日の放課後、私は学校の駐輪場で自分の自転車を押していた。今日は朝から憂鬱だ。登校時に自転車がパンクしたからだ。授業中もずっと嫌な気持ちだった。


 学校から家まで自転車で二十分ぐらい掛かる。自転車を押して帰ると一時間弱は掛かる。さらに家から自転車屋さんに持っていくのに三十分ぐらい掛かる。もし塾の日だったらママの自転車を借りないといけないけど、今日は塾が無かったから良かった。自転車が使えないのはとても不便で困るなぁ。


 後ろのタイヤの空気が抜けて、重い自転車を押す度にペコっペコって鳴っていて恥ずかしい。つい一週間前にもパンク修理したばかりなのに、今回と同じ後ろのタイヤ。修理する人が下手な人だったのかなぁ。そういえば見た感じが新人さんっぽかったかもしれない。私の運が悪いのかもしれない。


 わざわざ自転車を押して帰っていると、周りの人や同じ高校の学生の目線を感じたような気がした。どうせ私の事を惨めな姿に見られているのだろうと思った。パンクして恥ずかしいから知人や同じクラスメイトと遭遇しなければ良いけど。こういう時に限って友人と会ったりするからなぁ。あまり人通りのない道を選んで通ることにした。


 分厚い雲で日差しが陰り、冷たい風が吹きすさぶ中、ようやく家に着いた。自転車を玄関の前に停めて自宅に入ると、一階のキッチンで母親を見つけた。


「ママ、自転車の後ろのタイヤがまたパンクしちゃった」

「また? この前、修理したばっかりじゃない」

「そうだけど…」

「ガツンと怒ってやりなさい、ちゃんと修理したんですか!って」


 母親から修理代をもらって自分の部屋に入った。いつもだったらすぐにパジャマに着替えて宿題を始めるのだけれど、また外に出掛けないといけないというのが気分的に面倒で仕方がない。制服から私服に着替えて、簡単に支度を済ませた。

 一階に降りると、棚をガサゴソしていた母親が何かの紙切れを持ってきた。


「自転車を買ったときにもらった三ヶ月間の保証書があったから。修理代が多少は安くなるでしょ。ちょうど三ヶ月経つ前だから」

「ありがとう、見せてみる」

 保証書を鞄に入れて、また重い自転車を押して自転車屋さんへ向かった。


 母親には「ガツンと怒ってやりなさい」って言われたけど、何かあんまり怒れない。修理が失敗していた訳じゃないかもしれないし。私自身、人を怒るのって慣れていないし。もし怒ったら相手が嫌な気分になるだろうし。自分も嫌われるだろうし。途端に修理の対応が悪くなって雑にされたら嫌だし。もし修理が失敗していたら嘘をついて隠したりするのかなぁ。修理代で儲けを増やすために故意に失敗して何度も修理させたり。でも、信用が関わってくるからそんな事はしないかなぁ。


 そんな事を考えていると自転車屋さんに着いた。店内に入り見渡していると、目が合った年配の従業員が私の顔を見て寄ってきた。知らない人に喋らないといけないので一気に緊張してきた。


「いらっしゃいませ」

「すみません、後ろのタイヤがパンクして…」

「修理ですね、ちょっと確認してみます」

「先週も同じ所を修理してもらったのですが!」


 怒れなかったが、私にはそれを言うのが精一杯だった。もし腹が立っても自分の中で我慢してしまう。

「あらぁ、そうでしたか。すぐに修理しますのでお掛けになってお待ち下さい」


 十分ぐらい経ってから先ほどの年配の従業員に声を掛けられた。

「非常に小さいですが、ここに鉄片が刺さってるの見えます?」

 タイヤの外側に直径三ミリメートルほどの鉄の破片が刺さっていた。


「はい、見えます」

 従業員は小さなペンチで鉄片を引き抜き、手のひらの上に置いた。


「こういった鉄片でのパンク修理が最近増えてまして、自転車で工場横の道路とか通ります?」


「工場は無かったと思います」

 いつも通る通学路を頭の中で思い返してみたが思い当たらなかった。鉄片をよく見ると、クルっとカールしていて、彫刻刀で木板を削った削りカスのような形をしていた。


「先週、修理した箇所がこちらで、今回はこちらになります」

 タイヤのチューブには四角い絆創膏のようなものが二ヵ所貼られていた。結果的に先週のパンクとは違う箇所でのパンクだった。


 自分が自転車屋さんの修理失敗を疑ってしまった事がとても申し訳ない気持ちになった。何か言った方が良いと思うけど何て言えば良いのだろう。頭の中で言うことを焦りながら考えていたが何も出てこない。考えすぎて真っ白になり、何も言えない。相手はどう思っているのだろう。疑われたことを腹立てているだろうと思った。

 やっぱり私の事を嫌な奴だと思っているに違いない。私は嫌われ者だ、もう来ない方が良いのかもしれない。もし次の修理の時は母親に行ってもらった方が良い、と思った。


「パンクは運ですので、今回は運が悪かったみたいですね」

 年配の従業員はそう言うと笑顔で自転車を運んだ。


 修理代の支払いで、保証書を見せたがパンク修理は対象外で安くならなかった。

 店の外に出ると緊張から解放されて疲れで身体が重く感じた。修理済みの自転車に乗って帰路に就いた。大きなため息がお腹の底から出てきた。

 色々と考えすぎて疲れちゃった。

挿絵(By みてみん)

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