第三十六話
次の日の土曜日、私は電車の中にいた。手にはメモ帳を握り、何度も見返している。
都港中央行きの電車に朝の十時半ごろに乗り、順調に茶水駅に向かっている。
セミナーは十三時から開始するので、それまでに到着していないといけない。多分、一時間弱で着くはずだけど、電車を乗り間違えたり、道に迷った時の事を考えて一時間以上も早く家を出発した。
もし迷ったときはスマートフォンで調べれば解決すると思うけど、それでも不安が拭えない。
土曜日の午前中に電車を利用する人は少なく、座席には余裕で座る事ができた。人混みが苦手なので満員電車のような感じじゃなくて良かった。
電車が駅に止まる度に路線図を確認する。人が降りていったり、乗ってきたり、自分の周りの状況が刻々と変化する。向かいの座席に座っている人のスニーカー、左前に座っている人が持っている日傘、開閉ドアの近くに立っている人のリュックサックに付いているキャラクターのアクセサリ、周りの目に見える色々な情報が頭の中に入ってくる。殆どの人がスマートフォンを片手に持って凝視していた。
今日の服装は何が良いのか分からなかった。学生服はマズイよね。セミナーはちゃんとした服じゃないと受けられないのかもしれないから、一番地味な私服を選んだ。
髪を後ろで括り、できるだけ変に見られないように、何度も鏡で確認した。変ではないと思うけど、どのように見られているのか気になって仕方がない。
路線図を確認して無事、茶水駅に到着した。思っていたより比較的小さな駅で川沿いにある珍しい駅だった。
駅を出てメモ帳に描いた地図を頼りにセミナーが行われるビルを目指した。駅を少し離れると綺麗な建物が多く並んでいて、高層ビルも幾つも並んでいる。街並みが違うと空気のにおいも違う感じがする。
建物を眺めながら歩いていると、方向感覚が分からなくなりそうだけど、メモ帳のお陰で迷うことなく目的のビルに着いた。
スマートフォンを見るとまだ時刻は十一時四十分、一時間以上は時間がある。何して時間を潰そうかな。




