第二十九話
私は小学生の頃にイジメを受けていた時期があった。思い出したくはない事だけど、心にある古傷がいつの間にか開いていて、ヘドロのような記憶が滲み出てきていた。
小学五年生になったある日、一人の女子が転校してきた。
畑島美千という名前で、背が小さくて髪が短く、男の子のような見た目だった。
地方から引っ越してきたそうで、自己紹介の時、言葉のイントネーションに違和感があった。最初の印象は変な感じの人だった。
次の日の休み時間、掲示板を見ていた私に畑島さんが話し掛けてきた。
「図書室ってどこにあるん? 本を借りても良いんかいね?」
「うん、放課後に行ったら借りれるから連れて行ってあげる」
それがきっかけでよく話すようになり、一緒にいると楽しかったので仲良くなって友達になった。帰り道を途中まで一緒に帰ったり、家に遊びに行ったりするようにもなった。
畑島さんの家では部屋の中に昆虫の飼育ケースが山ほど棚に並んでいた。今まで見たことのない光景に私は心底驚いた。
「うちは昆虫が好きで、将来は昆虫の博士になりたいんよ」
畑島さんは昆虫の事についてとても詳しく、すでに博士の様だった。以前、図書室に行ったのも昆虫の本を借りる為だった。父親の影響で昆虫が好きになったみたいで、家では本や図鑑を読んだり、飼育したりして過ごしていると聞いた。
私は昆虫は得意ではなかったけど、畑島さんの才能は素直に凄いなといつも思っていた。
ある日、畑島さんは自宅の飼育ケースの一つを持って登校してきた。
女子達は当然気持ち悪がり、男子も昆虫を触ったことのない人が多かったので、ずっと騒いでいた。
その日から畑島さんは「変な人」という目で見られ、男子と女子からからかわれる事が多くなった。畑島さんは気が強く、口喧嘩をして反発していたのでイジメの対象にされた。私は人に対して文句を言うのが苦手だったので何も言えなかったが、畑島さんの味方だった。当然、私もイジメの対象とされた。
汚い。バイ菌。臭い。色々と悪口を言われ、畑島さんや私が触った物はバイ菌がついて汚いと言うクラスメイトたちの中、畑島さんと私はいつも二人きりだった。他は敵だらけで毎日、陰湿なイジメが続いた。
ある日、クラスメイトの女子からこう言われた。
「倉里さんは悪くないのに、アイツといるからイジメられるんだよ」
それを聞いた私は口には出さなかったが、友達を選ぶに決まってるじゃん、と腹を立てながら心の中で答えた。
畑島さんは五年生の三学期の終業式後に家庭の事情で転校して行った。残された私だけがイジメられる事になった。
心が辛くて、もう死にたい気持ちになった。




