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それはイブの夜に  作者: 大平麻由理
二時間目 過去
14/33

14.夢の果て その3

「相手は、相談オンナだよ。もう間違いない!」


 佐久田の言葉を受け、志津が前のめりになりながらとんでもないことを言い出す。


「相談女? ナニ、それ……」


 紗友子はすぐには志津の言葉が理解できなかった。相談女。言葉のまま受け止めればいいのだろうか。


「あのね、相手の気を引くために、自分の気に入った男にいろいろと相談を持ちかける女のことだよ」

「そうなんだ。多分そんな感じだとは思った。けど、相談女って、どこにでもいるような気がするよ。私だって、困った時には彼に相談するし……」

「だから、さゆにとって堀田君は彼氏なんだから何を相談しようと別にいいの。そうじゃなくて、相手は彼女もち男性限定。あるいは、奥さんがいたってかまわないの。それでもって、何でもいいから話を持ちかけて、困ってるアピールをするのよ。だって考えてみて。普通、相談ごとって、仲のいい同性の友人にしない? 恋人がいれば彼に相談するのはアリだけど、そうじゃないんだよ? 堀田君は、さゆの彼氏。彼女がいる男性に、あえて相談なんてフツーの神経してたらそんなことしないって」


 志津の熱弁は(とど)まるところを知らない。


「そ、そうだよね。佐久田君も言ってたけど、その人は、私の存在をわかって、彼に相談を持ちかけているって」

「そうよ。そこが問題なのよ。ねえ、さゆ。誰か思い当たる人、いない?」

「思い当たる人? わからない。本当に、何もわからないの」

「そっか……。あのさ、こんなこと、言いたくないけど。さゆが彼と付き合い始めた時、堀田君の大学の後輩で、彼に執着してた人がいるって、言ってなかった? ほら、美晴(みはる)とかいう子だったよね」

「美晴ちゃん? ああ、そうだった。そんなこともあったね」

「そんなこともあったね、って、さゆったらのん気すぎる。あの子の態度、結構ひどかったよ。ライバル意識丸出しで、嫌がらせもされてたじゃない。さゆはお人よしだから、美晴のことを彼に知らせるでもなく、結局ある程度耐えて、自然に静まるのを待った感じだった。ねえねえ、あの子、なんか怪しくない?」


 美晴は彼と同じ大学の後輩でサークル内でも彼ととても仲がよかった。ある意味、公認の二人だったのかもしれない。けれど、紗友子が彼と付き合うようになって二カ月後、彼女はサークルを辞めて、それ以降は嫌がらせを受けることもなかった。そんな美晴が今さら堀田に近づいて相談女と化していることがあるだろうか。

 


「あの子、執念深そうだったもん。さゆが何も咎めないまま、美晴があっさりと堀田君をあきらめただなんて、ちょっとうまく行きすぎる感じがしてた。ねえ、さゆ。美晴のSNSとかブログとか。見ることできない?」


 当時、彼女のブログを見たことはあった。サークル内のつながりで、ブログ紹介があったからだ。

 別段、変わった内容でもなく、おいしかったスイーツの紹介やテレビドラマの感想などがメインの女の子らしいレイアウトのブログだった。

 嫌がらせを受けていた頃は更新もストップしていたし、それ以降、全く見ることはなかった。


「ブログならあったと思うけど。どうして?」

「なんかさ、もし美晴が堀田君と会ってたら、それらしきことを書いているような気がしたんだ。もちろん、さゆが見るかもしれないというのも覚悟したうえで。だって向こうは相談女だもん、対抗意識満々だってば」


 紗友子はスマホを手にして、恐る恐る、彼女のブログを見てみた。

 まだブログは続けているようだ。一番新しい記事は昨日の日付だ。寒い1日、あこがれの先輩とアウトレットモールに行ったと書いてある。先輩との距離が徐々に縮まり、幸せだとも。

 先輩といっても、堀田と結びつけるには早急すぎる。美晴にとっての先輩は、それはもう数えきれないほどいるはずだ。学園祭のミスコンテストでは、審査員特別賞に選ばれたこともあるほどの美貌を兼ね備えた彼女にとって、アウトレットモールに同行してくれる先輩に不自由するとは考えられない。それに中学高校時代にも先輩はいるだろう。バイト先にも先輩と称される人は山ほどいるに違いない。

 紗友子は大丈夫と自分に言い聞かせながら、一月三日のブログを読んでみた。

 先輩と初詣に行った。クリスマスにもらったプレゼントを身に着け、それに似合う薄ピンクのワンピースででかける。けれど先輩が途中で用事があるからと一旦別行動。夜には再び合流して、おしゃれな和食の店で食事をした、と。紗友子も彼と一緒に行ったことがある店だった。

 クリスマスにもらったプレゼント、というくだりが気になるが、何をもらったとは(しる)されていない。

 そしてとどめが、その日先輩と初めて手をつなぎ、これからも付き合って欲しいと告白されたと書いてある。今までに感じたことのない恐怖心が紗友子を襲う。しっかりしなくては。相手が堀田と決まったわけではない。

 勇気を振り絞り、十二月の記事も読んでみた。二十五日のクリスマスの日。この日、堀田は友人と会うため紗友子とのデートは取りやめになった日だ。イブに会えたのだから仕方がないと我慢していた二十五日。

 美晴は先輩とプレゼント交換をしたらしい。先輩に相談に乗ってもらったお礼も兼ねてネクタイを贈り、先輩はピアスをプレゼントしてくれたと書いてあった。

 パールが揺れてかわいいピアス。一緒に店に行って選んだんだ。君にとっても似合うよと言ってくれた。最高にうれしいクリスマスだったと、文章を結んでいる。


 紗友子はスマホの画面から目を()らせ、大きく深呼吸をした。そして目の前の二人を見て、声を震わせながら言った。


「志津、佐久田君。今日はどうもありがとう。私、今から彼と会ってくる。彼がどこにいようと、会って、しっかりと今後のことを話し合ってくる」


 紗友子は三人分の代金をテーブルに載せ、志津と佐久田が引き留めるのも聞かずブックカフェを後にした。



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