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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
999/2051

第999話 カケラ争奪戦 イタリア3(4)

「ちっ・・・・」

 弱体化している身で光の手を避けているゼノにとって、弾丸すらも避けるのは難しかった。エリアの放った弾丸の内、4発ほどはゼノの胴体や腕部、脚部に吸い込まれた。だが、先ほどと同様に傷自体は浅かった。

 一瞬、ゼノの動きが鈍る。そのせいで、光の手の1つがゼノに今にも触れようとしていた。ここから回避行動に移る事は不可能。その事を悟ったゼノは、『破壊』の闇に染まった自身の右手で光の手に触れた。

 強い浄化の力を宿した光の手と、高密度の『破壊』の力を宿した手の衝突。光と闇、相反する力は互いに排除し合おうとする。それは斥力場となる。それは先ほどから何度となく再現されてきた光景。しかし、今度は先程とは違った事がある。それは、止めるべきものが1つではないという事だ。ゼノが光の手の1つを止めている間に、残りの光の手がゼノの体に触れた。

「ッ・・・・・・!? ぐっ・・・・・」

 ゼノが現在高密度の『破壊』の力を纏わせているのは両腕だけ。その箇所に光の手が触れる分には斥力のようなものは発生する。しかし、それ以外は普通の『破壊』の力を纏わせているだけだ。そして、その『破壊』の鎧とでも言うべきものも弱まっている。そこにファレルナの尋常ではない浄化の力を宿した攻撃を受ければ、闇人にとって相当なダメージになる。ゼノは苦しげな表情を浮かべた。

「っ・・・・! ゼノ・・・・・・・・!」

 ゼノの窮地に気づいた影人はそう声を漏らした。別に本当は光サイドである影人からしてみれば、ゼノの窮地は本来は喜ぶべき事だ。しかし、あからさまにゼノを見捨ててしまえば、レイゼロールに不審に思われるかもしれない。弱体化していても、影人にはゼノを助けるだけの力があるからだ。ゆえに、影人はゼノを援護しようと行動を起こそうとした。

(やらせるかよ!)

 スプリガンが何をしようとしているか予想した壮司は、左手のガントレットの力を発動させた。

「ぐっ、邪魔を・・・・・!」

 影人は立っていられないほどの凄まじい重さを感じた。影人が膝をつく。影人が膝をついた同時に壮司は影人に向かって駆け出した。

(ちっ、『破壊』の力で・・・・・っ、そうか。無詠唱での力の行使は弱まってる。この重さを完全に破壊する事は出来ない)

 癖で『破壊』の力を無詠唱で右手に纏わせた影人だったが、重さから解放されはしなかった。ましにはなった程度だ。ゆえに、影人はこう言葉を放つ。

「『破壊』の闇よ、我が右手に宿れ!」

 既に壮司は影人に接近し大鎌を振るっていた。ギリギリのところで詠唱は間に合い、影人は重さから完全に解放される。影人は振るわれた大鎌を紙一重で回避し、低姿勢から蹴りを放った。

(っと!)

 だが、壮司は影人の蹴りをギリギリで避けた。そして切り上げるように大鎌を振るった。

「闇よ、我が肉体に纏え。即ち、闇纏体化」

 影人はその一撃を避けながら自身の身体能力を強化した。久しぶりに詠唱して分かった事は、やはり詠唱は面倒だなという事だ。格好はいいのだが。

(この状況で黒フードから目を離すのは無理だな。ゼノを助けなくてもいい大義名分が出来た・・・・と考えるべきか。そうだ。あいつを必死こいてまで助ける理由はない。それが正しい)

 黒フードの怒涛の攻撃を回避しながら、影人はそんな事を考える。自分が黒フードから一瞬でも目を離せば、黒フードはレイゼロールに危害を加えるかもしれない。それは、ゼノを助けられない理由にはなる。

(・・・・・・・・そうだって言うのに、何で俺はこんなに気分がザラついているんだ・・・・?)

 まるで仲間意識でも持っているかのように、同情でもしているかのように。影人は自分の心が分からなかった。













「光よ、そのまま闇人を包み続けて」

 ゼノに取り付いた光の手にファレルナはそう指示した。ゼノは複数の光の手に包まれ苦悶の顔を浮かべていた。

「っ・・・・・・」

 闇人が浄化の力を浴び続けるという事は、人間が毒を浴び続けるのと同義だ。そして、ファレルナの浄化の力は凄まじい。闇人からしてみれば、それは猛毒だった。

 急激に弱体化するゼノ。その結果、ゼノが右手で押し止めていた光の手との均衡も崩れ、ゼノの右手に光の腕が絡みついた。ゼノの右腕の『破壊』の力もかなり弱っている。ゆえに、斥力は発生しなかった。

「く・・・・そ・・・・」

 掠れた声を漏らすゼノ。ファレルナはここを好機と捉え、ゼノを更に弱らせるべく次の指示を光の手に与えた。

「全ての光の御手よ、闇人の右腕を包み浄化させて」

「っ〜!」

 ファレルナの指示に従うように、ゼノの全身に取り付いていた光の手がゼノの右腕に集中する。ゼノは右腕に灼けつくような激しい痛みを覚えた。

 一箇所に集中された凄まじい浄化の力。その結果、


 ゼノの右腕は、光の粒子となって溶けるように虚空へと消失した。次の瞬間、消失した右腕の部分から凄まじい量の黒い血が流れ出た。


「ははっ、痛った・・・・」

 乾いたように笑うゼノ。それは死を悟ったゆえの笑いか。ファレルナはそんなゼノに対して、こう宣言した。

「主よ、彼の者に光の安息を与えたまえ。これで終わりです。光の御手よ、その者の闇を全て包んで」

 ファレルナが厳かにそう言うと、光の手が再びゼノの全身を包まんとした。今この手に包まれれば、ゼノは間違いなく浄化されるだろう。

 ファレルナの勝利か、そう思われたその時――

「・・・・・・・()()()()使()()()()()()()()()()()・・・・仕方ないか」

 ゼノはボソリと意味の分からない言葉を呟いた。


 そして、ゼノがそう呟くとゼノの全身から凄まじい闇が噴き出した。 

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