第997話 カケラ争奪戦 イタリア3(2)
「誰? 邪魔をしたのは」
ゼノが鎖が飛んできた方向に顔を向ける。あの鎖に一瞬動きが止められなければ、ゼノはファレルナを殺せていた。ゼノは睨むように自分の邪魔をした者を見つめた。その方向を見つめたのはゼノだけではない。エリアやファレルナ、そして影人もそちらに顔を向けた。ただ、ゼノを縛った鎖に見覚えがあった影人は、鎖を放ったのが何者なのか半ば分かっていた。
「・・・・・・・・・」
4者の視線の先にいたのは黒いローブを身に纏い、黒いフードを被った者だった。右手には大鎌を持ち、左手には黒いガントレットを装着している。そのガントレットに巻き付いている鎖は何かに壊されたように、短くなっていた。
(やはりこいつか黒フード。だがなぜだ? なぜ聖女サマを助けた?)
予想通りの人物に影人は内心そう呟いた。黒フードの人物の登場に対する驚きはない。だが、なぜ黒フードの人物が光導姫を助けたのかに対する疑問と驚きはあった。黒フードの人物の行動はまるで――
(・・・・・やっべー、ついやっちまった。いや、『聖女』はこっち側の重要な戦力の1つだし、助けるのは理由っちゃ理由になるんだが・・・・・・・・いや、やっぱ詭弁だよな。俺の仕事はレイゼロールとその障害になるスプリガンを殺す事だし。別に『聖女』が死んでも問題はなかった。ははっ、これじゃいつかのスプリガンみてえじゃねえか・・・・)
一方、黒フードの人物こと案山子野壮司は内心でそんな事を思っていた。どのタイミングでレイゼロールに奇襲をかけるか戦いを観察していたはずなのに、気がつけば手を出していた。これではまるで、自分がまだ多少は善人のようではないか。既に人を3人も殺している自分が。壮司は自分のその行動に自虐の念を覚えた。
そして、壮司は自分の行動が、謎の怪人が光導姫を助けたという事が、目の前にいるもう1人の怪人と似たような行動である事を自覚していた。
(だがやっちまったもんは仕方ねえ。俺もこっから戦いに参加するとするか)
壮司はしかしすぐに気持ちを切り替えると、殺意と闘志を燃やし『フェルフィズの大鎌』を構えた。
「っ、何者だ・・・・・?」
「あなたが何者なのか存じませんが、危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
エリアは壮司に対して疑問の言葉を漏らし、ファレルナはこんな状況だというのに、バカ正直に壮司にお礼の言葉を述べてきた。ファレルナの言葉に対し、壮司は内心で「マジかよ」と少し呆れていた。
「現れたか・・・・・・・・」
レイゼロールは少しだけ目を開き壮司の事を見てそう呟いた。
「お前? 邪魔をしたのは。誰なの、お前」
ゼノは不機嫌そうに壮司にそう声を飛ばした。ゼノにそう言われた壮司は、「怖っ・・・・」と内心で軽く身震いした。
「・・・・・・・・あいつは『フェルフィズの大鎌』を持つ者だ。目的ははっきりとは分からないが、俺やレイゼロールを狙って攻撃してくる。あの鎌からダメージを受ければその瞬間にどんな奴だろうと死ぬ。・・・・・・レイゼロールの奴から聞いてないのか?」
ゼノに説明の言葉を投げたのは影人だった。今の口調からするにゼノは黒フードの事を知らないようだった。流石に黒フードの事は説明しなければ死に直結するので、影人はそう言ったのだった。




