第996話 カケラ争奪戦 イタリア3(1)
「っ!? マズイ、避けろ『聖女』!」
ファレルナの光が再度破られた。しかも、今度は真っ直ぐにエリアとファレルナの方に超速の闇の槍が向かって来る。その事に危機感を抱いたエリアはそう叫んだが、しかし時は既に遅かった。影人の放った槍は空を裂き、エリアの右の横腹を掠めた。そして、槍はそのままエリアの後ろにいたファレルナのすぐ横を過ぎ、どこかへと消えて行った。
「ぐっ・・・・・・・!?」
脇腹を槍に掠られたエリアは苦悶の声を漏らした。掠ったとは言っても、弾丸と同レベルかそれ以上に速い槍だ。それが掠ったとなると、それなりの傷にはなる。具体的には、エリアの右の脇腹の肉は数ミリほど抉れ、出血していた。
「『銃撃屋』さん!?」
エリアの負傷を見たファレルナは驚いたようにエリアの守護者としての名前を呼んだ。ファレルナの光が一瞬弱まる。それはファレルナに生じた明確な隙だった。
「やっとマシになった。これなら・・・・使える」
その瞬間、ゼノはそう呟きゾッとするような笑みを浮かべた。そしてゼノは右の黒腕をファレルナへと向けた。
「壊れろ、空間」
ゼノがそう呟き右手を握る。すると次の瞬間、パリンと何かが割れるような音が響いた。
音が響いた後に起こった現象は実に、実に驚くべきものだった。
いつの間にか、ゼノはファレルナにほとんどゼロ距離レベルにまで接近していたのだ。
「なっ・・・・!?」
何が起きたのか意味が分からなかった影人は驚きから目を見開いた。一瞬だ。一瞬にしてゼノはまるで瞬間移動でもしたかのように、ファレルナに近づいた。
「え?」
ポカンとした表情でそう声を漏らしたのはファレルナだった。ファレルナはその赤みがかった茶色の瞳を大きく開き、至近距離に移動してきたゼノを見つめた。
「一瞬の油断で人は死ぬ。バイバイ、君も今から死ぬ」
ゼノはそう言いながら右の黒腕を振るい、ファレルナの心臓に向かって右手を穿つように突き出そうとした。ファレルナの光は、今のエリアの負傷の動揺からか弱まっている。このゼノの高密度の『破壊』の力を宿した手は易々とファレルナの心臓を穿つだろう。そうなれば、おそらくファレルナは死ぬ。そして、ゼノの手がファレルナに触れるまで後2秒ほど。ファレルナの死はほとんど唐突的に確定したようなものだった。
「ッ、『聖女』――!」
エリアがファレルナの光導姫名を呼ぶ。銃をゼノに向けようとするが、エリアは内心では間に合わないという事を半ば悟っていた。
(っ、これはヤバいか? だが、ここで聖女サマを助けるわけには・・・・・・・・!)
ファレルナが死ぬかもしれない。その可能性が急に影人の頭を過ぎった。光導姫ランキング1位という、レイゼロールを最も浄化できる可能性がある光導姫をここで失うのはマズイ。だが、この場面でファレルナを助ければ、計画が頓挫する。影人はどちらを取るべきか、不覚にも一瞬迷ってしまった。
そして、その一瞬の迷いがファレルナを助けるという選択肢を消してしまった。
ゼノの右手が後1センチほどでファレルナに触れる。最強の光導姫が死ぬ。そう思われたその時、
「ん・・・・・・?」
ゼノの右手首に燻んだ銀色の鎖が巻きついた。そのため、ゼノがファレルナに触れる事はなかった。
だが、ゼノの右手首には『破壊』の力が宿っている。鎖がゼノの動きを封じていたのはほんの一瞬で、鎖は粉微塵と化した。
「ッ!? 『聖女』! 下がって光を放て!」
しかし、その一瞬のおかげで状況はまた変化した。エリアはファレルナにそう指示し、銃弾を1発放った。
「はいッ! 光よ、輝いて!」
エリアの言葉に素直に頷いたファレルナは、思いっきり地面を蹴って後ろに飛びそう言葉を放った。ファレルナの光が再び輝きを増す。
「ちっ」
弾丸を左手で払い破壊したゼノは、ファレルナの光に目を細め一歩引いた。




