第993話 カケラ争奪戦 イタリア2(2)
「っ、痛いな。こう感じたのなんていつ以来だろ・・・・・・・」
弾丸をその身に受けたゼノは軽くそう呻いた。だが、弾丸を受けた傷は比較的浅めだ。そして不思議な事に、ゼノの肉体を貫いた弾丸は徐々にだがヒビ割れていき、やがては粉微塵のように風に散っていった。そのため、弾丸の後はいずれも貫通せずに、皮膚から1センチくらいの場所までしか穿たれてはいなかった。
(っ、どういう事だ? ゼノは全身に『破壊』の力を纏う事が出来る。だから、あいつに触れた全てのモノは一瞬にして破壊される。だっていうのに弾丸程度でダメージを・・・・・)
思い出されるのは冥とゼノが戦った時の事。あの時ゼノの肉体に触れた冥の腕は一瞬にしてバラバラになった。その後に、冥は言っていた。ゼノが全身に『破壊』の力を纏える事は知っていたが云々と。ゆえに、影人はそのような疑問を持ったのだ。
ゼノがダメージを受けた事に一瞬疑問を持った影人だが、しかしすぐにある答えが浮かんだ。
(そうか。ゼノも今は弱体化してる。だから、全身に『破壊』の力を纏っていたとしても、すぐにその物質を破壊できない。『破壊』の力の弱体化の影響は時間に現れるのか)
影人は正確にゼノの傷口を見たわけではない。しかし、撃たれたにしてはゼノの出血量が少ない事に気づき、後は謎の持ち前の勘の良さからそう予想した。
そして、影人のその予想は当たっていた。ゼノは戦いが始まった時から全身に『破壊』の力を纏っていた。銃弾を受けても傷が浅かったり、弾丸が塵となって消えたのはそれが理由だ。
(ちっ、弱体化してる身でこれはあんまり使いたくなかったが・・・・・仕方ねえ・・・・!)
出来るだけ後方のレイゼロールを守るという都合上、影人は容易にこの場所を離れる事ができない。ならばアメリカの時のように、レイゼロールに違う場所で探知を続けてもらえばいいかと言えばそうもいかない。
なぜならば、黒フードの人物の存在があるからだ。前回レイゼロールが1人の時に黒フードの人物はレイゼロールを襲った。前回レイゼロールは黒フードの人物を撃退したが、黒フードの人物が『フェルフィズの大鎌』を持っている以上、もしもの事態は常に起こり得る。その前回の例がある以上、影人はレイゼロールが自身の近く、反応できる場所にいてくれる方がいいと考えていた。
だが、ゼノは少量ではあるが血を流す負傷をしている。闇人にとって血を流すという事は弱体化を意味する。ゼノは『破壊』の力を扱う闇人。自身の傷を治す事は出来ない。そして、これ以上弱体化するという事は状況的にかなりマズイ。ただでさえ、影人やゼノはファレルナの光で弱体化しているのだから。ゆえに、早急にゼノの出血を止める必要があると影人は考えた。影人なら、ゼノの傷を治せるからだ。
しかし、影人が安易にこの場所を動くわけにはいかない。そこで影人が考えた方法は――
「我が写し身よ、顕現し『破壊』の闇人の傷を癒せ」
「・・・・・・・・・・・・」
影人がそう唱えると、影人の横に影人とまるっきり同じ姿の人物が出現した。前髪野郎が2人。正直に言ってしまえば、悍ましすぎる光景だ。そして、影人の隣に現れたもう1人の影人は、無言で真っ直ぐにゼノの方へと向かって行った。
「っ、分身した?」
エリアが驚きからかそう言葉を漏らす。だが、時は既に遅い。ゼノに近づいたもう1人の影人は、ゼノに右手をかざし、ゼノに暖かな闇の光を流し込んだ。
するとゼノの傷はたちまちに癒え、ゼノの出血は止まった。ゼノの傷が治った事を確認したもう1人の影人は、闇となってその場で溶けるように消えた。




