第992話 カケラ争奪戦 イタリア2(1)
「先手はもらおう」
1番最初に動いたのは、エリアだった。エリアは乱雑に、それでいて的確にゼノや影人に向かって拳銃を連続的に発砲した。
「はっ、豆鉄砲を・・・・・・」
影人は自分とゼノ、そして影人の後ろにいるレイゼロールを守るように闇の障壁を創造しようとした。
「っ・・・・・・・・!?」
だが、影人は何か違和感のようなものを感じた。力がざわつくというか、上手く練れないというか、とにかくそのような感覚だ。だが結果として、影人の力はいつものように発現した。
闇色の障壁が影人やゼノの前面に展開される。障壁はエリアの無数の弾丸を受け止める。しかし、いつもなら銃弾程度なら難なく弾く闇の障壁は、弾丸を弾かずに徐々にヒビが入り始めていた。
「なっ・・・・・」
『影人! 俺の力はあの鬱陶しい光のせいでいま弱体化してる。そのせいで障壁がいつもより脆くなっちまってるんだよ! このまま撃ち続けられたらすぐに砕かれるぞ!』
いつもではあり得ない光景につい目を見開いた影人に、イヴがそんな忠告を飛ばして来た。先ほどソレイユに言われた事が、このような形で表れるとは思っていなかった影人は、内心で舌打ちをした。
「闇人、あと少しで障壁が破壊される。あの光のせいでな。援護はしてやるから、突っ込みたいなら突っ込め」
「別にゼノでいいよ。じゃあ、障壁が崩れたら俺行くから援護お願い。俺もあの光で弱体化してるから、援護くれるなら欲しいし。崩れるの何秒後?」
「大体3秒後だ」
「分かった。なら、3、2、1 ・・・・・・」
影人の大体の目安に頷いたゼノはカウントダウンを始めた。エリアはまだ弾丸を撃ってきている。エリアの拳銃は守護者としての武器なので、弾切れというものがないのだ。
そしてヒビは障壁全体に広がっていき、ゼノがカウントしたちょうど3秒後、障壁は完全に砕け散った。それと同時に、ゼノはエリアとファレルナに向かって駆け出した。
(イヴの力が弱体化してるって事は、俺の力も全体的に弱体化されてるって事だ。なら――)
その事を念頭に入れながら、影人はこう言葉を呟いた。
「闇の鎖よ、虚空より出でて我が敵を穿て」
影人の言葉を受け、虚空から闇の鎖が複数本出現する。わざわざ言葉に出したのは、威力強化のためだ。いつもの無詠唱での力の使用が弱体化しているのなら、力の消費が上がり詠唱しなければならないが、威力を強化してやれば、いつもと同じレベルの力が行使できるという事になるはず。具体的にどれくらい自分が弱体化しているかは分からないが、浅はかに影人はそう考えた。
ゼノと共に複数の鋲付きの鎖がエリアとファレルナを襲う。だが、
「光よ、私たちを守って」
ファレルナが祈るように両手を合わせそう呟くと、ファレルナの背後の光が一際強く発光した。すると、エリアとファレルナを襲おうとしていた闇の鎖は2人の一定以上の距離に近づけず、光に溶かされるように消え去った。
「ッ!?」
その現象を目の当たりにした影人は、再び光に目を細めつつも驚いた。まさか鎖が消え去るとは思っていなかったのだ。
「ッ、本当に厄介な光だ・・・・」
その光のあまりの輝きに、ゼノはどこか苦しげにそう呟く。ゼノも虚空に消え去った鎖と同様に、ファレルナの一定以上の距離に近づく事は出来なかった。
「隙ありだ」
ゼノを狙いエリアが3回発砲した。エリアの放った銃弾はゼノの肉体を正確に穿った。




