第991話 カケラ争奪戦 イタリア1(4)
「スプリガンさん。私は以前あなたに会った時にこう言いました。『もし、やむを得ずあなたと戦う事があり、あなたが真の闇に沈んだのならば、その時は私が勝ちます』と。・・・・・私はまだあなたが真の闇に沈んだのか、正直なところは分かりません。だから、それを確かめるためにも、私はあなたと、あなた達と戦いましょう。そして、あの時の言葉通り、私は勝ちます」
決意に満ちた顔でその少女、光導姫ランキング1位『聖女』のファレルナ・マリア・ミュルセールはそう宣言した。
「・・・・・・・・はっ、言ってくれるな『聖女』。俺の闇の深さを見通せなかった奴に、そう言われる道理はないぜ」
ファレルナのその宣言に、影人は不敵な笑みを浮かべそう答えを返した。
「なんだ、君あの子と面識あるの?」
「1度ランキング1位がどんな奴か確認しに行った時にな。それだけの面識関係だ」
ゼノの質問に影人は何でもないといったような感じで言葉を述べる。スプリガンと『聖女』の関係はそれ以上には現在のところ存在しない。
「ふーん、そう」
影人の言葉を聞いたゼノは納得したのか、ただそう言った。
「じゃあ、まあ適当にやろうか。スプリガン、俺は好きにやるから、君は出来るだけレールを守ってあげて。俺には壊す力はあっても、守る力はないからさ」
ゼノは軽く首を1回回し1歩前に出た。ゼノからそう言われた影人はこう返事をした。
「・・・・・・それは請け負ったが、俺も俺の好きに動くぜ。あんたが好きにやるなら、俺も好きにやらせてもらう」
「別にレールを守ってさえくれるならどうしてもいいよ。ただ、レールに何かあったら・・・・俺は怒るよ」
「っ・・・・・・そうかよ」
最後の言葉の部分で、ゼノは一瞬だけ目を大きく開き影人を見つめた。影人はゼノが一瞬だけ発した凄まじい圧に息を詰まらせるも、そう言葉を呟いた。
「戦闘を開始する」
エリアがそう言葉を放つと、エリアの変身媒体である帽子が輝きを放った。すると次の瞬間、エリアの姿が変化した。帽子が消え、ダークスーツは影人と同じような黒の外套に、黄色のネクタイは黒のネクタイに、そして右手には黒い拳銃が握られていた。
「ああ、主よ。これから戦いという罪を犯す私をどうかお許しください。十字架よ、姿を変えてください、私を戦いの装束へと」
ファレルナが両手を合わせ祈るようにそう言うと、ファレルナのロザリオが輝きを放った。光がファレルナの全身を包む。すると、ファレルナの姿が変化した。白を基調とした修道服のような衣装へと。その姿こそが最強の光導姫、『聖女』としてのファレルナの姿だった。
だが、ファレルナが変身し、訪れた最も大きな変化はそれではなかった。
(っ、何つう光だよ・・・・・・!)
影人は反射的にその目を細めた。その原因はファレルナの背後から漏れ出る光、後光や光背と呼ばれるであろう光だ。ファレルナが変身した直後、その凄まじい光が放たれたのだ。しかも、これはただの光ではない。影人は自分の内にいるイヴの悲鳴のような声を聞いた。
『ああああああックソが! 何つう浄化の光出しやがる! 気持ち悪りぃ!』
イヴだけではない。影人の1歩前に出ていたゼノも、少しその顔を歪めこう呻いた。
「これは、ちょっとキツいな・・・・・・これだけ強い浄化の光を無造作に垂れ流し続けるか。闇奴くらいならこの光を浴びただけで浄化されるね。レールが危険だって言うわけだ・・・・・・・・・」
どうやら2人の言葉から考えるに、ファレルナが背後から発しているあの光は浄化の力を宿した光のようだ。闇の力本体そのものであるイヴ、闇人であるゼノからしてみれば、その光は不愉快なものでしかなかった。
『影人、あの光こそがファレルナが最強の光導姫である理由の1つです。高すぎる浄化の力が生み出す聖なる光。浄化の力を宿した光は、闇人を弱体化・浄化させるだけでなく、闇の力を扱う者全てに有効です。あなたも普段通りのパフォーマンスは出来ないと考えた方がいいでしょう』
(はっ、マジかよ・・・・・・・・・・)
影人の内に響いて来たのはソレイユの声。ソレイユの説明を受けた影人は、少しヤケクソ気味に内心でそう呟いた。
――最も苛烈なるカケラを巡る戦い。第8のカケラ争奪戦が、遂に始まった。




