第985話 8つ目のカケラ(2)
「そうか。君も彼に会ったのか。羨ましい限り、と言いたいところだが、『光臨』した君が歯が立たないという情報は素直に恐ろしいものだね。『光臨』した君はほとんど無敵の存在だというのに」
神妙な顔のソニアに、ロゼは変わらない様子でそんな感想を述べる。ちょうどスプリガンの話題になったので、ソニアはロゼにこんな事を聞いてみた。
「ねえ、ロゼはスプリガンの事をどう思ってる? スプリガンが菲を攻撃した事で、スプリガンは私たちの敵になった。ううん、認定されたって言った方がいいね。私も敵として彼と戦った。でも・・・・・・私はスプリガンが単純な敵じゃないと思うんだ。確かに私は彼に攻撃された。傷も受けた。でも改めて思い返してみると・・・・・スプリガンは何度も私を殺すチャンスがあったはずなのに、私を殺さなかった。本当に純粋な敵になったなら、敵である私を殺すと思う。だけど、私は生きて今ここにいる。それが、どうしても気になるんだ」
ソニアは、スプリガンと戦ったあの日から胸に秘めていた自身の心の内を吐露した。スプリガンが敵であるという事はソレイユとラルバが決めた事だ。それは即ち光導姫と守護者が従うべき絶対のルール。だから、ソニアも当然それには従う。だが、ソニアはそこに人としての、微妙な、とても微妙な心を有していた。なまじ、スプリガンと戦ってしまったからだ。
「ふむ。私の意見か。そうだな・・・・・・・・・・先ほど述べたように私はスプリガンという存在自体に興味がある。むろん、彼が何者なのか知りたいという気持ちはあるが、彼が敵かどうかは正直どうでもいいね。まあ、自分で言うのもなんだが、私は少々特殊な考えだと思うよ」
ソニアの正直な胸の内を聞いたロゼは、自身も素直な気持ちでそう言葉を述べた。
「私がよく行っている学校がある。帰城くんや真夏くんがいる学校だ。まあ、これは既に君も知っている情報だ。帰城くんについては彼から、真夏くんに関しては先ほど私が教えたからね。と、いけないな。話が無駄に長くなってしまう。とにかく、その学校には2人の光導姫がいるんだ」
ロゼはそこで1度言葉を切り、またコーヒーを啜ると話の続き言葉に出した。
「もう10月の初めの事だ。私がいつものようにふとその学校に行ってみると、どこか浮かない顔の彼女たちがいた。彼女たちとは顔見知りだったから、少し話を聞いてみたんだ。すると、彼女たちは話してくれた。自分たちが浮かない顔をしている理由をね」
「・・・・・・その理由がどうかしたの?」
「まあ、そういう事だよ。彼女たちは色々とスプリガンと関わりがあるらしくてね、今まで何度かスプリガンに助けてもらったと言っていた。だから、彼女たちはスプリガンを信じていたらしい。きっとスプリガンは自分たちの味方だとね」
「っ・・・・・・・・!?」
ロゼの話を聞いていたソニアの顔が驚きと、そしてどこか悲しさのようなものが混じった顔になる。ロゼはそんなソニアの表情に気づきながらも、話を続ける。
「だから彼女たちはショックを受けていたんだ。スプリガンが明確に敵になったという事に。今までも何度かスプリガンに対する自分たちの思いが揺らいだ事はあったが、その度に改めて信じ続けて来た。だが、今回は事が事だけにショックが大き過ぎた。そのような事を言っていたよ」
「・・・・・・・・・・それは辛いだろうね」
ソニアはポツリとそう感想を漏らした。それはソニアの心からの言葉だった。自分がその2人の立場なら、絶対に同じようなショックを受ける。ソニアにはそのような確信があった。




