第982話 ラルバの思惑、歌姫再来訪(4)
「それでも1回ここで待ち合わせしてみたかったんだ♪ 確かに君の言うみたいにリスクはあったけど、せっかくだから。それに、これくらい人が多い方が逆に安心かなって。ほら、木の葉を隠すなら・・・・・ええと何だっけ?」
「森の中だろ」
「そうそれ! だからきっと大丈夫だよ」
「楽観的なやつだ・・・・・・で、これからどうするんだ? 取り敢えず、俺としてはここから離れたいんだが」
つい4日前にスプリガンとしてソニアと戦った事などおくびにも出さず、影人はソニアにそんな質問をぶつけた。今度会う時はまたスプリガンとして会うだろうと4日前の影人は思ったものだが、やはり人生というのは予想外の出来事の連続である。本当に厄介で面倒なものだ。
「じゃあ、ちょっと場所を変えて話そっか。どこかカフェみたいなところないかな?」
「知らん。俺はこの辺りには全く来ないからな。だがまあ適当に探せばあるだろ」
ソニアの言葉に首を横に振った影人。そもそも影人はほとんど都心に来る事はないので、東京に住んでいるといってもこの辺りの土地勘はない。だが、これだけの都会だ。喫茶かカフェなら探せば絶対にある。影人はそんな風に考えてソニアにそう言ったのだった。
「そっか。なら、探そっか♪」
ソニアはそう言うと影人に右手を差し出して来た。いったい何のつもりだと影人が訝しんでいると、ソニアが怒ったような恥ずかしそうな声でこう言った。
「もう、手を繋ごうって意味! 言わせないでよ」
「頭がどうかしたのかお前は。何が悲しくてお前とお手手なんか繋がなにゃならんのだ。ほれ、行くぞ」
ソニアのその言葉に影人はそう即答した。そして差し出されたソニアの手を無視し、適当に歩き始めた。
「え!? ちょ、ちょっと流石にそれは酷くない!?」
影人にそのような反応をされたソニアはかなりショックを受けたようで、慌てて影人の後を追ってきた。
「どこがだよ。俺は既に孤独ってやつと手を握ってんだ。お前と手を握る事は出来ないんだよ」
「え? 全く意味がわからない・・・・・・・・じ、自分で言うのもなんだけど、私有名人だよ? ほ、ほら有名人と手を握れるチャンスだよ〜?」
厨二全開の前髪の言葉を受けたソニアは一瞬真顔になったが、影人と手を握る事を諦め切れずかニヤニヤとした顔でそう言葉を放った。その言葉を聞いた前髪は、フッと気色の悪い笑みを浮かべる。
「語るに落ちたな金髪。俺は有名人に興味はない。なんなら最近は腹がいっぱい過ぎる。俺はお前と手を握るか100円玉を取るかと言われれば、100円を取る。つまり、お前と手を繋ぐのは俺にとって100円以下の価値だ。分かったら100円よこせ。手は繋がんがな」
「いや普通に意味がわからないよ!? しかもお金請求したあげく手握らせてくれないの!?」
ソニアはそう突っ込み返した。可哀想に前髪なんぞの言葉を真に受けたからである。いや、前髪は冗談とかではなく本気でそう言ったので、余計に救いはないが。とにかくソニアは軽く絶叫した。
「ぷっ・・・・・・・あははははははっ! 何か懐かしいー! 本当、やっぱり君ってちっとも変わってないんだね。何かもう笑うしかないくらいに♪」
しかし、ソニアはやがて笑い声を上げた。そうだ。昔から影人はこうだった。夏に影人と日本で会った時にも色々と感慨深かったが、あの時は久しぶりに再会した事などもあって、影人はここまで砕けた雰囲気ではなかった。だから、ソニアはショックを受けると同時に影人の言葉がどこか嬉しかったのだ。




