第981話 ラルバの思惑、歌姫再来訪(3)
「・・・・正直言って今から会うのは面倒いな。普通にのんびりしたいし。だがまあ、金髪にはちょっと借りがあるしな・・・・・・・・」
影人は軽く悩んだ。はっきり言って今の自分は孤独モード(要は1人でいたいという事。一生1人で永眠してろ)だ。人に会う気分ではない。例えばこれが暁理ならば無理と普通に言うだろう。後日暁理は怒り狂うかもしれないがそれはそれでいい。影人と暁理の関係は友人だ。気兼ねはいらない。
そういう意味ではソニアも友人と言える。小学生の時から知り合いなので、あまり気も使う必要はない。だから断ってもいいのだが、ソニアには空港での別れの時に励ましてもらった恩がある。ゆえに、影人は少し悩んだのだ。
「・・・・・まあ借りの作りっぱなしは嫌だからな。ここで綺麗に精算しとくか。はあ、ったく面倒くせえ」
結局仕方がないと割り切った影人は、ソニアに大丈夫だという意味のメールを返信したのだった。
「待ち合わせ場所は・・・・・ここか。あいつもベタなところを選んだもんだな」
時刻は午後5時。冬という事もあり、既に空は暗くなり始めている。影人は電車を乗り継いで、渋谷駅のハチ公前にいた。ソニアから指定された待ち合わせ場所はここだった。もちろんと言っては変だが、交通費は全額ソニアが払うとの事だった。金に本当に余裕がない高校生の影人は、当然その申し立てを受けるつもりだ。
「うへぇ、にしても都心は本当にありえん人が多いな。まあ土曜日のこの時間だからなのかもだが、同じ東京とは思えん」
影人は前髪の下から周囲の光景を見渡す。見渡す限り人、人、人だ。影人が住んでいる郊外とはまるでその人の数が違う。人混みがあまり好きではない影人は辟易としていた。
(にしても、金髪の奴は何考えてんだ? こんな人混みの中で待ち合わせなんて。変装はしてくるんだろうが、あいつ自分がどんな存在なのか本当に分かってんのか・・・・・?)
ソニアは世界の歌姫だ。バレたらただごとでは済まない。影人がそんな事を考えていると、影人の左肩がポンポンと叩かれた。影人は反射的に顔をそちらに向けた。
「ハロー、影くん。急な事だったのに、今日は来てくれてありがとう♪」
「・・・・・・・・ふん。まあ、感謝の言葉は受け取っといてやるよ」
そこにいたのは小学校の夏祭りと会った時と同じ、帽子やメガネで変装したソニアだった。影人は嬉しそうにそう言ってきたソニアに、別段感慨もないようにそんな言葉を返した。
「それよりも、何でわざわざこんな所を待ち合わせ場所に選んだんだよ? お前、その辺り分かってないのか」
少し言葉をぼかしつつ、影人は気になっていた事をソニアに聞いた。影人のぼかした言葉を理解したソニアは「いや、それは分かってるよ」と言って、言葉を続けた。




