第977話 カケラ争奪戦 アメリカ5(3)
「・・・・我らを追って来たという事は、あの『フェルフィズの大鎌』を持つ者は去ったか」
「そういう事だ。・・・・で、この状況だとまだカケラは手に入れてないみたいだな」
影人の事情を察したレイゼロールがそう言葉を述べる。ソニアを足止めしなかった説明を省けた影人は軽く頷くと、ソニアに視線を向けた。
「くっ・・・・・・・・」
ソニアは冷や汗を流しながらより厳しい顔を浮かべた。スプリガンとレイゼロール。1人だけでも信じられない程の強さを持つ者たちであるのに、今はそれが2人。正直に言って、この2人と2対1をして勝つのは絶望的だ。
「ちょうどいい。その光導姫の相手はまた貴様に任せる。我はカケラを回収しなければならないのでな」
レイゼロールは影人にそう言うと、翼をはためかせどこかへと飛び去っていった。
「っ、待っ――!」
ソニアが反射的にレイゼロールを追おうとする。だが、ソニアの行手を阻むようにスプリガンが立ち塞がった。
「そういうわけだ。悪いがまた俺が相手をしてやる」
「スプリガン、そこを退いて!」
立ち塞がった影人にソニアが焦ったように声を荒げる。だが、影人はここを退くわけにはいかない。いや、いかなくなってしまった。
(いや、俺も出来るなら退いてやりてえよ。でも、今ここで俺が金髪を通したら絶対にレイゼロールに疑われるしな。ちくしょう、タイミングが悪かったな)
影人はまだレイゼロールサイドを裏切るわけにはいかない。ゆえに、ここでソニアを通すわけにはいかない。実力的に、影人はソニアを通さない実力があるからだ。影人は今ジレンマのようなものを感じていた。仕方ないが、今回もまたレイゼロールがカケラを吸収する事になるだろう。
「さて、どうする『歌姫』。お前は既に俺の速さを知っている。何かマイクに向かって言葉を発するなら、その前にお前かお前のマイクを切り裂く」
「っ・・・・・」
影人は脅すようにソニアにそう宣言した。スプリガンの言葉を受けたソニアは、スプリガンをただ睨みつける事しか出来なかった。
ソニアが何も行動出来ずただスプリガンと対峙して1、2分ほど時間が経つ。そして、
世界に凄まじい闇の力の波動が奔った。
「・・・・・・・・吸収したか。なら、仕事はここで終わりだな」
少しだけ残念そうにため息を吐いた影人は、闇の波動の正確な中心地の場所がどこか感知すると、その方向に向かって空を蹴り、前方に「影速の門」を創造しそれを潜り超速の速度でどこかへと消えた。
「え、あ・・・・え?」
一瞬にして自分の前から姿を消したスプリガンの意図が分からずに、ソニアはただそう声を漏らす事しか出来なかった。
「・・・・・・・これで7つ目か。残りは3つ。いよいよ近づいてきたか・・・・」
近くにある白亜の巨塔――ワシントン記念塔のすぐ近くの地面を抉り、そこに埋まっていた拳1つぶん程の黒いカケラを砕き自身に還元させたレイゼロールは、どこか感慨深げにそう言葉を漏らした。この場所は光導姫から遠く離れているため、人避けの結界の範囲外であるが、夜も更けているためか周囲に人の姿はなかった。
レイゼロールがそう呟いて10秒ほどした時、夜空から何者かがこの場に飛来した。




