第975話 カケラ争奪戦 アメリカ5(1)
(ッ、レイゼロールの奴、5分はまだ経っていないが気配を特定できたのか?)
空に羽ばたいたレイゼロールの姿を見た影人はそう推測した。空を羽ばたくレイゼロールの姿を見たのは当然影人だけではない。ソニアもショットも黒フードの人物も、レイゼロールも影人同様にレイゼロールを見上げていた。しかし、当のレイゼロールは見上げる者たちは眼中にないように、真っ直ぐにどこかへと向かっていった。
「レイゼロール、いったいどこに・・・・・・・・あ、まさか・・・・ごめんなさい『狙撃手』! 私はレイゼロールを追うね! 『風よ、私に空を駆ける自由を』!」
レイゼロールがどこかへと向かっているのを見たソニアは、ここに来る前にソレイユから言われた事を思い出しながら、自身も空を飛んだ。レイゼロールはここ最近何かを探している様子がある。レイゼロールが何を探しているのかまだ正確には分からないが、きっと自分たちにとって良くない物である可能性が高い。ゆえに、出来るならばレイゼロールが探している物をどうにか入手して欲しい。ソニアはソレイユにそう言われたのだ。
「え、マジ? 取り敢えず分かったけど、1キロ以上先だと俺援護は出来ないぜ?」
急にそんな事を言われたショットは、ソニアの言葉を了承しながらも通信装置にそう言葉を吹き込んだ。ショットは狙撃を主とする少し特殊な守護者だ。そのため、ソニアと共に移動するのは難しい。ソニアも当然その事は理解している。「分かってる、ありがと!」とソニアは返事をした。
「・・・・・・・・ふん」
レイゼロールの後を追ったソニアを影人は見逃した。当然、ソニアがカケラを回収するという期待を込めてだ。光臨を延長したソニアならば、その可能性は大いにある。しかし、これは表向きの理由ではない。
「・・・・・さて、どうする黒フード。狙撃手がどう動くかどうかは分からないが、この場にいるのは一応俺とお前だけになったぜ」
表向きの影人がでっち上げた理由は黒フードがまだいたからだった。流石にソニアだけと戦っていたのならば、影人も追わなければレイゼロールから疑いの目を向けられてしまう。しかし、この場には危険度の高い黒フードの人物がいる。『フェルフィズの大鎌』を持つこの人物を足止めしていたという理由ならば、まあ疑いの目を向けられる事はないはずだと影人は考えていた。
(黒フードがまた現れたり、金髪が光臨を延長したり、イレギュラーがあったが何だかんだ都合がいい状況になった。ラッキーだな)
影人がそんな事を考えていると、影人の視線の先にいた黒フードに動きがあった。
「・・・・・・・・・・」
黒フードの人物はゆっくりと左手を影人に向けた。
「・・・・またそれか。確かに最初は多少驚いたが、もう飽きた。お前のその力は俺には通じない。馬鹿の一つ覚えは滑稽だぜ」
黒フードに左手を向けられた影人はどこか呆れたようにそう呟いた。確かに黒フードが手に入れた力は強力だ。しかしその力は影人や、影人と同じく『破壊』の力を扱えるレイゼロールなどといった者たちには通じない。
「・・・・・!」
黒フードの左手のガントレットに闇色のオーラのようなものが纏われる。重力がまた来る。影人がそう思い『破壊』の力を左手に付与させようと思った時、黒フードの人物は唐突に左手を下ろし、その裾から何かを取り出した。
そして、黒フードはその何かを地面に叩きつけた。次の瞬間、辺りに猛烈な白い煙が広がった。
(っ、煙幕? ・・・・・・逃げる気か!)
黒フードが煙幕を張った訳を悟った影人は、煙に向かって闇の風を起こした。闇の風はその風圧で煙を晴らしていく。
だが、既に黒フードの姿はなかった。




