第974話 カケラ争奪戦 アメリカ4(5)
「よし、離れた!」
ソニアとスプリガンの距離が離れた事を確認したショットが、ライフルから銃弾を3発ほど放つ。当然のようにライフルの弾をどうにかするあの怪人に当たるとは思っていないが、撃たないよりはましだとショットは考えていた。
(ふん。まあいい。金髪はもうあと数十秒で光臨が切れる。後は適当に2分稼げばいいだけだ)
3発の銃弾を適当に回避しながら影人はそんな事を思った。光臨が切れる前にソニアがアクションを起こせるとしても1度だけ。1度だけの能力使用で影人を戦闘不能にする事はおそらく不可能だ。ソニアの能力を体感している影人は自然とそう考えた。
『影人、1つ言い忘れていましたがソニアの光臨は少し特殊です。なぜなら彼女は――』
唐突に、ソレイユが何か重要な情報を影人に伝えようとした。しかし、その前にマイクを召喚していたソニアがマイクに向かってよく通る声でこう叫んだ。
「『アンコール』!」
ソニアがそう叫んだ直後、ソニアの体を一瞬光が包んだ。そして、光臨の限界時間である10分が経過した。
しかし、ソニアの変身が解ける事はなかった。
(っ!? どういう事だ。もう10分は経過したはずだ。いや、別に正確に時間を測っていたわけじゃなかった。それに眼を強化した俺の体感時間と現実の時間はかなり違う。なら、時間がズレてるだけか?)
向かって来た黒フードを無視して超高速で場所を移動した影人は内心疑問を覚える。黒フードは影人のスピードには追いつけず、忌々しそうに口元を歪めていた。
『いえ、既にソニアが光臨してから10分は経っていますよ。ただ、ソニアは今のように「アンコール」とマイクに言葉を述べる事で、1回だけ光臨の時間を延ばせるのです。更に10分』
(は・・・・・・・・・・・・? おい、何でそういう大事な事をもっと先に言っとかないんだてめえはよ! バカじゃねえのか!? 何のために念話があるんだよ! このイカれポンコツ女神が!)
ソレイユの説明を聞いた影人はこんな状況だというのに内心でキレた。
『イ、イカれポンコツ・・・・!? だ、だからいま言おうとしたんですよ! ですが、ちょうどソニアが光臨を延長してしまって・・・・・・・・と、とにかくそういう事です!』
ソレイユはその情報を早く言わなかったのを申し訳ないとは思っているのだろう。あたふたとした感じでそう言葉を返して来ただけだった。
(何がとにかくそういう事ですだ、ったく・・・・・・ちっ、予想外の事態になっちまったがやる事は変わらねえ。残り約2分時間を稼ぐ。今みたいな攻めの守りを変わらずにするだけだ)
対処法は変わらない。ソニアの言葉よりも影人の速度の方が速い。ゆえに、影人は焦らずにそう考えた。
逆にこの状況はチャンスかもしれない。ソニアが光臨時間を更に10分延長したという事は、光臨の短い時間の都合上、可能性が著しく低くなっていた「あわよくば光導姫がカケラを奪取できる可能性」が高くなったという事だ。なら、後はレイゼロールがカケラを見つける時間を稼ぎさえすれば――
「もう不覚は取らないよ。君の危険性は充分に体感したから」
「・・・・・ふん。分かっていれば反応できるという事じゃない。お前のその言葉は、また覆される事になる」
20メートル離れた位置から真剣な顔を浮かべ、ソニアはそう言葉を放つ。それに対し、影人は黒フードや狙撃手を内心で警戒しながらそう言葉を返した。
第2ラウンドが始まる。そう思われた時、何かが空へと羽ばたいた。
それは、黒い翼を生やしたレイゼロールだった。




