第973話 カケラ争奪戦 アメリカ4(4)
「それよりも、そろそろ限界時間が近いんじゃないか? 大体あと2分ってところか。さて、残りのその時間で俺に勝つ自信はあるか『歌姫』」
「・・・・・・・・ご心配なく。充分過ぎる時間だよ」
「そうか。なら、その言葉が虚勢じゃないか確かめてやるよ」
ソニアの言葉を聞いた影人は再び右手にナイフを創造した。今度は『破壊』の力抜きだ。そして、ソニアに向かってノーモーションで急接近し、ソニアが持っていたマイクのヘッド部分を叩き切った。
「あっ!?」
マイクが壊されたソニアは反射的にそう声を上げた。ソニアの光臨後の能力はマイクを通して言葉を述べなければ発動しない。だが、その能力発動媒体であるマイクは今スプリガンの手によって破壊されてしまった。
「ッ、『歌姫』! クソ、近すぎて撃てねえ・・・・・・・!」
その光景を見ていたショットが難しげな顔を浮かべる。狙撃をしてスプリガンをソニアから追い払いたかったが、いかんせん2人の距離が近過ぎる。もしいま撃てば、万が一の場合ソニアに危険が及ぶかもしれない。ゆえにショットは引き金を引かなかった。
「・・・・・・これでも同じ事を言えるか?」
「っ、バカにしないで! もう1度来て、私のマイク!」
ソニアは自分のすぐ近くに敵がいるという不安感と恐怖感を怒りで誤魔化しながら、再び自分の右手にマイクを呼び出した。ソニアのマイク、というよりも光導姫の武器や守護者の武器は、破壊されたり使用不能になれば再度召喚する事が可能だ。
「もう1度召喚できるか。・・・・だが、無意味だ」
影人はほとんど目に見えない速度で再び右手のナイフを振るった。その結果、またもマイクはヘッドの部分が切られ破壊されてしまった。
「っ!?」
「また呼び出すか? いいぜ、お前の光臨時間が切れるまで付き合ってやるよ」
「くっ・・・・・!」
酷薄な笑みを浮かべながら、影人はソニアにそう言葉を述べる。その笑みを見たソニアは先ほどから感じていた恐怖感から、反射的にその身を後ろに引こうとした。
だが、
「逃げるなよ。どっちにしても、お前はもう詰んでんだ。なら、滑稽に道化をしてろよ」
影人は空いている左手でソニアの右手首を掴んだ。
「ッ、は、離してッ!」
「嫌なら振り払ってみろ。まあ、今のお前じゃ無理だろうがな。・・・・・・・・そら、残り時間は1分を切ったぜ。ここからどうにかしてみろよ」
身体能力は断然に影人の方が上。能力を使わない限り、ソニアがこの手を振り払う事は出来ない。そして影人の言葉通り、ソニアに光臨時間はもう既に限界に近づいていた。
(さて、思い描いていたプランとはけっこう違う感じになっちまったが、時間が稼げるならこれでいいか。後は適当に――)
狙撃が来ても適当にあしらえばいい。影人がそんな事を考えていると、
「・・・・・!」
黒フードの人物が影人の方に左腕のガントレットに纏わりついている鎖を放って来た。そのついでとばかりに、影人の体をまたあの重さが襲った。
「っ! ちっ、邪魔しやがって・・・・・」
急な重力に影人はついソニアの手首を握っていた手を離してしまった。その隙にソニアは逃げ出した。やはり範囲というよりもその対象だけを重くするタイプの力のようだ。
「シッ・・・・・!」
影人は左手に『破壊』の力を宿し重力を破壊すると、右手のナイフを黒フードへと投擲した。自分に向かって来る鎖は適当に回避した。黒フードは影人が投げたナイフをギリギリで避けると、鎖を回収し影人の方へと向かって来た。




