第971話 カケラ争奪戦 アメリカ4(2)
「対処法はもう分かってるんだよ・・・・!」
フェルフィズの大鎌と銃弾が影人に襲いかかる。だが、影人は焦らずに右手に再び『破壊』の力を付与した。途端、影人に掛かっていた重さが綺麗さっぱりになくなる。重力を『破壊』したのだ。
「ふっ・・・・・!」
そして、影人はそのまま上空に飛翔した。
「っ・・・・・」
「飛ぶかい! はっ、もう何でもありだな」
黒フードは飛翔した影人を見上げ、ショットは半ばヤケクソのようにそう呟いた。
(金髪の光臨時間はあと約3分。稼がなきゃならない時間は5分。金髪を無力化したところで黒フードがいやがるから、結局はしっかり5分稼がなきゃならない。・・・・はっ、上等だ。やってやるよ)
空に舞い上がった影人はそんな事を考えながら口角を少し上げた。レイゼロールにはああ言ったが、正直に言えば今のこの状況は逆境だ。数だけでいえば3対1。しかもその3人は、規格外の力を持つ光臨したランキング2位『歌姫』と、正確な狙撃を行なって来る者、更に一瞬の油断が文字通り死に直結する全てを殺す大鎌を持つ者。流石のスプリガンの力といえども、この者たちを相手に5分稼ぐのは中々に骨だ。
だが、それでも影人は笑う。この状況をどうにかしてやろうと。影人の中に湧き上がって来るのは闘志とは少し違う、少し歪な攻撃的な感情。この逆境を壊してやりたいという、どこか破壊的な思い。それは正の感情というよりかは、負の感情に近かった。
そしてそれは、闇の力を強める感情。影人はここ最近守りの戦いばかりしている事に少しだけストレスを感じていた。別に影人は戦いが好きというわけではない。どちらかというと面倒だし戦いは嫌いだ。しかし、それでも守りの姿勢ばかりではつまらないと感じる。
「・・・・・・・・ボコボコにしてくれた礼をくれてやるぜ、金髪・・・・!」
影人は小さな声でそう呟くと、右手を地上のソニアへと向けた。影人のその仕草に何か感じたのだろう。ソニアはマイクに新たにこう言葉を入れた。
「ッ、『スプリガンは墜落する』!」
ソニアがそう呟いた瞬間、影人の体が突如として落下し始めた。影人は今まで浮遊の力を使っていたがそれが急に切れた。再度発動しようとしても、なぜか浮遊の力は発動しなかった。
(へっ、好きにしやがれ。逆にこの落下感が気持ちいいぜ)
上空約20メートルほどから落下しながらも、影人に焦りはなかった。影人は少しだけ、いやかなり気分が高揚していた。
「・・・・・!」
影人の落下地点を狙って黒フードが再び駆ける。好きにしろと影人は思った。どうせ、黒フードの人物では影人に触れられはしない。
(金髪。確かにお前の力は凄い。普通に反則みてえな能力だ。例え強者だろうと、お前に勝つのは難しいだろう。それ程までに光臨した今のお前は強い)
左手で帽子を押さえ、逆さに地面に向かって落下しながら、影人は改めてソニアにそんな思いを抱いた。
(だがな・・・・・・・・俺は倒そうと思えば、いつでもお前を倒す事は出来たんだぜ。俺は既に知ってるんだよ。お前みたいな奴への対処法をな。なにせ、俺自身がやられたんだからよ)
そう。影人は倒そうと思えば、それこそ殺そうと思えばいつでもソニアを殺す事が出来た。影人がそれをしなかったのは当然影人がソニアの味方だからだ。そして、あわよくばソニアにカケラを回収させるため。倒すわけにはいかなかった。それは今からも変わらない。まあ、ソニアが光臨した事によって、あわよくばカケラを回収するという事は、時間の都合上ほとんどなくなってしまったが。それでもだ。
影人は自身の体に常態的な身体強化の力と『加速』の力を付与した。影人の体に闇のオーラのようなものが纏われる。
(お前の能力は必ずその性質上、言葉に出すというプロセスが必要だ。それはイヴと契約する前の俺と同じ。そして、俺は2回目のフェリート戦でそのプロセスが原因で窮地に陥った)
影人は落下しながらも依然右手をソニアに向けたままだ。影人は自分の右手の先に黒いゲートのようなものを創造した。影人が「影速の門」と呼ぶものだ。




