第969話 カケラ争奪戦 アメリカ3(4)
「後はついでに、『私とショットの声を繋ぐ』、『ショットにこの戦場を俯瞰する光景を見せる』♪」
ソニアは離れた位置にいる守護者をバックアップするべく能力を使用した。すると、ソニアの右耳にインカムのような装置が装着された。そして、それは離れた場所にいるショットの右耳にも同時に装着された。
「ハロー、『狙撃手』。聞こえてる?」
「ああ、バッチリな。後、モニターもありがとさん。あんたの事だから、バックアップはしてくれると思ってたが助かったよ『歌姫』」
ソニアの言葉にショットは右耳の通信機に向かってそう言葉を返した。急に右耳に何かが装着されて、自分の斜め前の空間に投影された戦場の映像が出てきた事には多少驚いたが、ソニアの言葉でショットはそれがソニアの援護だと気がついた。
「あんたのおかげで格段に狙いやすくなった。後は好きに動きな『歌姫』。俺が今まで以上に援護するからさ」
「うん、ありがと♪ よーし、ここからが私のライブの本番だ。『来て、私の楽団』♪」
ソニアがそう言うと、ソニアの周囲の空間からぼんやりとした白い人影が複数人、いや何十人と現れた。その人影はそれぞれ楽器を携えていた。ギターやドラム、ピアノ、それにバイオリンやチェロ、シンバルなどといった、多種多様な様々な楽器だ。いったい何が始まると影人は身構えた。
「さあ、奏でてみんな。『攻撃の歌・全演奏』♪」
ソニアがそう言葉を述べると、
「〜♪ 〜♬」
白い人影たちが一斉に楽器を演奏し始めた。
「っ・・・・・!」
その演奏は一言で言えば激しかった。本来ならば、楽器の種類の多さで不協和音になるはずのその演奏は不思議となぜか纏まっていた。
だが、問題はそんな事ではない。白い人影の楽団が演奏した直後、周囲の空間が突如として弾け始め、幾重もの衝撃が影人の体を襲ったのだ。
「がっ・・・・・・・!?」
先ほどの7つの衝撃よりは1つ1つの衝撃は弱い。だが、何重にも重なる事によってその衝撃は先ほどの衝撃よりも強力になっていた。
更に不幸な事に、
「そらよっと」
同時にショットも2発ほどスプリガンに向けって銃弾を放っていた。2発の銃弾は正確に影人の体に向かって飛んでいく。
「くそがッ・・・・・・・・!」
衝撃から逃れられない影人は幻影化を使用した。影人の肉体が陽炎のように揺らめき、霧のようにその場から流れていく。幻影化は力の燃費が最悪だが、そのぶん絶対にどんな攻撃だろうと回避できる。影人はその力を使った。
流石に幻影化だけはソニアにもどうにも出来まい。影人はそう考えていた。
しかし、影人はその考えが甘いという事を思い知らされる事になる。
「また不思議な力使ってるね。でも、逃げてほしくはないな♪ 『スプリガンの体は実体化する』♪」
ソニアがそう言葉を放つ。すると、霧のように変化していた影人の体はその場で実体化した。
「なっ・・・・!?」
これには影人も思わずそう声を漏らした。まさか幻影化までも阻害されるとは思っていなかったのだ。
「ぐっ・・・・!?」
そして実体化したという事は、再び影人の体に不可視の衝撃が襲いかかるという事。影人は全身にまた何重もの衝撃を感じながら後方へと吹き飛ばされる。銃弾は幸いにも幻影化で少しは移動していたので、当たる事はなかった。
(ち、ちくしょうが・・・・・・・・軽いミンチにされた気分だぜ・・・・・・)
全身をボロボロにされた影人は、また回復の力を使い自身の肉体を治癒した。演奏は未だに続いているが、有効距離があるのか不可視の衝撃は今は影人の肉体を打ってはこなかった。
(まさか幻影化まで破られるとはな。本当、信じられない気分だぜ。別に舐めてはいなかったが、光臨した金髪が予想の100倍強い。正直、光導姫にここまで苦戦させられるのは初めてだ)
影人は警戒しながらソニアへと目を向ける。光導姫ランキング2位『歌姫』のソニア・テレフレア。その実力は本物だ。
『ふふん、どうです影人。ソニアは凄いでしょう』
(何を呑気にドヤってやがんだクソ女神。ムカつくからやめろ。っていうかお前よく俺にそんな事言えんな。頭沸いてんのか?)
急にそんな事を言って来たソレイユにそう言葉を返しながら、影人は現在の状況を改めて思考する。
(大体金髪が光臨して6分くらいってとこか。なら、あと4分耐えるか金髪が光臨を解除すれば、実質的に俺の勝ちだ。光臨前の金髪の能力は大した事はなかったからな。なら、なんとか後4分耐えるか)
影人がそんな事を考えている間、ソレイユが『このクソ前髪! 誰の頭が沸いていると言いましたか!』と言って来たがそんなものは無視だ。バカな女神に構っているほど、いまの影人に余裕はない。
(そういえばレイゼロールの奴はまだか? まだカケラの気配を探るのに時間が掛かってるのか。それとも・・・・・・)
レイゼロールがまだ姿を現さない事に、影人は少し疑問を抱いた。思い出されるのは中国戦。あの時、途中から黒フードの人物が現れた。もしかしたら、レイゼロールはどこかで黒フードの人物と戦っているのかもしれない。影人がふとそんな事を思った時――
「っ・・・・・!」
影人の後方から何者かが派手に転がって来た。その人物は影人がいま思い浮かべていた、大鎌を持ち黒いフードとローブを纏った人物だった。
そして黒フードが転がって来た場所から現れたのは、
「・・・・・・・・ふん。やはり、貴様ではまだ我を殺せそうにはないな」
睥睨するかのように黒フードの人物を見つめるレイゼロールだった。




