第966話 カケラ争奪戦 アメリカ3(1)
「っ・・・・・・・!」
ソニアから発せられる輝きに目を細める影人。こんな時だというのに影人は内心で、「何で光導姫といい、シェルディアが召喚した竜たちといい、変身したりパワーアップする奴は光るんだ」と半ばキレ気味に思っていた。影人も変身する時は黒い輝きを放つが、これほど眩しくはない。いつか失明したらどうしてくれるんだと前髪は思った。
そんなどこかメタ的な事を思っている間にも、光は収まっていく。そして、その中心にいたソニアは――
「――お待たせ♪ 衣装チェンジ完了だよ♪」
明るい笑顔を浮かべながら、影人にそう言ってきた。
ソニアの衣装は本人が衣装チェンジと言うだけあって、光臨前とはかなり変わっていた。光臨前のソニアの衣装は日本のどこかアイドル然としていた衣装で、学生服を可愛らしく改造したような感じだった。だが光臨後は白いドレスを基調とし、所々にオレンジ色の刺繍が入った、まさしく姫のような衣装になっていた。
「・・・・・・・はっ、衣装が変わっただけなら意味はないぜ。そこに強さが伴わないとな」
ソニアの言葉を皮肉るように影人はそんな言葉を掛けた。もちろん光臨して衣装が変わっただけという事はあり得ない。ソニアの光導姫としての能力も強化されているはずだ。影人のこの言葉は皮肉る以外の目的は何もなかった。
「じゃ、しっかり見せてあげないとね。私っていう存在を。さあ、ライブを始めるよ! 来て、私のマイク!」
ソニアは負傷している左腕から右手を離すと、右腕を平行に伸ばした。すると、ソニアの右手の先に光が生まれ、その光が徐々に先端が丸く細長い棒のようなものへと変わっていった。そして、光はやがてメタリックオレンジのマイクへと姿を変えた。
「まずは・・・・・『私の体を癒やして』♪」
ソニアがマイクを右手で握り、マイクに向かってそう言葉を発した。すると不思議な事に次の瞬間、ソニアの負傷した左腕に暖かな光が宿り、銃弾で血塗れになっていたソニアの左腕は完全に治癒され、元通りになった。
「っ・・・・!? 治癒能力の会得か・・・・・・・・!」
その現象を目の当たりにした影人は、ソニアの光臨後の強化された力が回復の力だと予想した。確かに回復されるというのは厄介だなと、影人は素直に思った。
『いいえ、それだけではありませんよ。「光臨」した「歌姫」の力はこんなものではありません』
だが、影人の予想を否定するように影人の中にソレイユの声が響いた。影人はそれがどういう意味かソレイユに聞きたかったが、その前にソニアは続けてマイクにこう言葉を与えた。
「次は、『スプリガンは動けない』♪」
ソニアがそう言った瞬間、
「っ・・・・・・・!?」
影人の体はまるで金縛りにあったかのように、突然動かなくなった。
(なんだ何が起きた!? 金髪が俺が動けないと言った瞬間、体が動かなくなりやがった! いや、今は原因を考えてる場合じゃない。この状況を早く何とかしないと・・・・・!)
急に体が動かなくなった事に、さすがの影人も混乱した。戦場で動けないというのはマズイどころの話ではない。それに今は――
「おっ、『歌姫』が光臨したか。なら、チャンスだな」
狙撃ポイントを移動していたショットは、スコープを通して影人とソニアのいる戦場の状況を把握した。ソニアが光臨した事を察したショットは、スコープの中にスプリガンを捉え引き金を引いた。
ショットが引き金を引いたのは、スプリガンが金縛りにあっているからと、知っているわけからではなかった。ソニアの光臨した力を知っているショットは、単純にこの機会に再び攻勢を掛けようと思い、引き金を引いた。
『おい影人、お前から見て斜め上左方向から銃弾だ。眼を強化してるから時間はまだあるが、早めに対応しろよ』
(っ! やっぱり撃ってくるかよ・・・・! イヴ、悪いが俺の体に黒騎士を纏わせてくれ。後、俺の体の一部分に『破壊』の力を頼む。俺は今、何かの力を受けて身動きが取れない)
『ああ? なんだよそれ。ったく、世話のかかる奴だな』
イヴからの忠告を再度受けた影人は、ついでにイヴにそう頼んだ。別に金縛りを受けているといっても、影人は力を内面で扱うから力が使えないという事はない。この頼みは本当についでの頼みだった。




