第963話 カケラ争奪戦 アメリカ2(2)
「というかせっかく夜間の中ヘッドショット決めたってのに、意味なかったの最悪すぎる。いやまあ、死なないってのは知ってたけどさ・・・・・・」
軽くため息を吐くショット。この呟きからも分かる通り、先程レイゼロールの頭部を狙撃したのはショットだ。ショットからしてみれば、狙撃が難しい夜間で1キロも離れた目標の頭部を撃ち抜けたのは、かなり自信がついた事だったのだが、数秒後に何事もないように対策されてしまったので、自信が一瞬で砕かれた。全く以て、狙撃手泣かせの標的だ。
「ま、切り替えていくか。幸いまだ狙える標的はいるし。何か対策しても、きっと『歌姫』が何とかしてくれるしな」
ショットは明るくそう言うと、黒の迷彩マント(どちらかと言うとポンチョだが)をはためかせ、再び自身の守護者としての武器である黒いライフルのスコープを覗きこんだ。
「しっかり狙い撃ってやるよ、黒い妖精さん」
そして、スコープの中に映るスプリガンを見つめながらニヤリと笑った。
(さて、まずは時間稼ぎだな。ソレイユ、金髪・・・・『歌姫』には今回の事情は説明してあるのか?)
『――はい。ソニアにはあなた達の元に送る前に1度神界に呼んで今回の状況を説明しました。レイゼロールは何かを探しているかもしれない。そのため、レイゼロールが何かを見つけた時、またその素振りがあればそれを先に回収してほしいと。ソニアは了承していました』
影人の内心での言葉にソレイユはそう答えた。その言葉を聞いた影人は了解の念話を返す。
(分かった。ならその事を考えて適当にやるか)
影人はまず自身の体を透明化させた。そして障壁を解除する。ここまではレイゼロールと同様の行動だ。ただ、影人はレイゼロールとは違いここから攻撃を仕掛けるが。
「ッ! ワーオ、スプリガンも消えるんだね・・・・」
「げっ、嘘だろあいつも消えんのかよ!」
姿を消したスプリガンに、ソニアと離れた場所にいたショットがそう声を漏らす。特に、狙撃手であるショットは絶望したような声だった。
(金髪の能力は確か歌を媒介にした能力だったな。その能力の全貌を知ってるわけじゃないが・・・・・・・・姿が見えない敵相手にお前はどう対応する、『歌姫』サマよ)
釜臥山で影人は少しだけソニアの能力を見た事がある。影人があの時見た感じでは、ソニアは近接型というよりも中から遠距離型だった。ならば、近距離まで近づけばソニアは不利になるはず。影人はそんな事を考えた。
足音と気配を消し、影人は徐々にソニアに接近していった。ソニアへの距離残り20メートル、15メートル、そして10メートル――
「どこから来るからは分からないけど・・・・・それなら、全方位を攻撃すればいいだけだよ♪」
姿を消して敵が近づいてくるという状況。それは普通ならば緊張し、恐怖する状況だ。しかし、ソニアは変わらずに明るい笑みを浮かべると、大きく息を吸い込んだ。
「攻撃の歌・全方位」
ソニアが歌を歌い始める。情熱的でどこか荒々しさを感じる激しい歌だ。その歌声が響くと同時にソニアの周囲の空間が、無作為に弾け始めた。




