第960話 カケラ争奪戦 アメリカ1(3)
「――今回はアメリカか。お前のカケラは随分とバラけていやがるな」
「・・・・・・我のカケラはかつて世界中に散らばった。バラけているのは当然と言えば当然の事だ」
夜の闇の中、言葉を交わす男と女がいた。スプリガンとレイゼロールだ。2人は今アメリカの首都ワシントンD.C.、その街を見渡すように住宅街の建物の屋根に立っていた。
「・・・・・で、今回もこの街にある事は分かってて、正確な場所は分からないって感じか?」
影人は自分の隣にいるレイゼロールにそう質問を飛ばした。影人がシェルディア経由でレイゼロールにまた呼び出されたのは、今から10分ほど前。そして、カケラの気配がどの場所にあるか分かったから、護衛をしろと言われたのは今から1分ほど前の出来事だ。質問を飛ばす余裕はなかった。
「ああ、前回の時と同じだ。しばらくはまた気配を探る必要がある。・・・・・・・・今回も我と貴様の気配は漏れてはいない。ゆえに、ソレイユやラルバがここに光導姫や守護者を送って来るとは思えんが・・・・」
「前回の例がある、か・・・・正直、その辺りは謎としか言えないな」
レイゼロールの言葉の先を影人が述べる。神妙な顔を浮かべているが、中国の時に光導姫と守護者が現れたのは実は影人が原因だ。それを知っている者がこの言葉を聞けば、俗に言う「いけしゃあしゃあと」と感じるだろう。
「そうだ。ゆえに、そうなった時はまた貴様に働いてもらう」
「・・・・・そうなればな。お前はさっさとカケラの気配を探れよ。面倒な仕事は出来るだけ早く終わらせたい」
影人は軽く息を吐きながら、レイゼロールにそう言葉を返した。
(出来れば昼休みが終わる前には戻りたいが、まあ無理だろうな・・・・・はあー、5限目はサボりだなこりゃ・・・・・・・)
影人が早く仕事を終わらせたい理由はそれだった。ワシントンは現在夜だが、つい10分ほど前まで影人は学校にいたのだ。しかもちょうど昼食を食べている時間、つまり昼の12過ぎだった。そんな時に、シェルディアから電話が掛かって来た。レイゼロールがスプリガンをまた呼んでいると。影人は急いでお弁当に蓋をして学校を飛び出し、スプリガンに変身して、2度ほど呼び出しを受けたあの公園へと向かった。
公園にはレイゼロールが認識阻害の力を使ったのか、レイゼロール以外には誰もいなかった。そして、影人はこのアメリカの首都であるワシントンD.C.にやって来た。だから、影人からしてみれば、さっきまで昼だったのに急に夜になったという感じで、何だか変な気分であった。
ちなみにシェルディアからの電話云々という話は、数日前に影人がシェルディアに頼み込んで携帯電話、というかスマホを買ってもらったという話だ。もちろん、シェルディア自身用に。その理由は、影人がレイゼロールサイドに正式に属する事になったため、今までよりもレイゼロールと影人との窓口であるシェルディアと頻繁に連絡を取る必要が生じたからだ。例えば、今日のように影人が学校に行っている間にレイゼロールからスプリガンに対してのメッセージがシェルディアに来た場合など、携帯を持っていないシェルディアは影人にすぐに情報を伝える事が出来ない。そういった場合の時用にと、影人はシェルディアに携帯電話を持つようにと頼んだのだった。
だが最初、影人との頼みとはいえシェルディアは携帯電話を持つ事をかなり嫌がった。元々、縛られているような感じがするからと、今までシェルディアは携帯電話を持っていなかったからだ。シェルディアはレイゼロールからの連絡があった場合は影人の気配を辿って、直接影人の前に現れるからと代替案を述べて来たが、いきなりシェルディアが目の前に現れれば、それは相当にマズイ状況になるので影人はその案を却下した。最終的にシェルディアが携帯電話を持つ事を了承したのは、影人が買い出しの荷物係を3回請け負うと言った時だった。
「何だ、用事でもあるのか?」
「別にそういうのじゃない。誰だって、面倒な事は早く終わらせたいものだろ」
探るようなことを聞いて来たレイゼロールに、影人はそう言葉を返した。まさか、自分が学生であるなどとは言うわけにはいかない。
「・・・・確かにそれはそうだな。ならば、出来るだけ早く終わらせよう」
レイゼロールは適当に述べた影人の言葉に理解を示すと、集中するためにその両の瞳を閉じた。




