第953話 計画の全貌(1)
あまりにも一瞬に生命が壊された。その暴力的に冒涜的な光景。それを見た影人は、ただただ衝撃に襲われた。
(なん・・・・・だ・・・・・・・・いったい何が起きて・・・・)
理解が追いつかない。冥が壊れた。まるで物のように。簡単に。最上位の闇人がだ。
だが、しかし影人は冥が壊れた光景に既視感があった。それはシェルディア戦の時に、自分が行った事。この手で、不死のシェルディアを殺そうと思い使ったあの力。影人も1度はシェルディアをあのようにバラバラに砕け散らせた。その力の名は――
「・・・・・昔よりも更に力に磨きが掛かっているわね、ゼノ。あなたの『破壊』の力は」
「そうかな? でも、シェルディアがそう言うんだったらそうなんだろうね」
戦いを見ていたシェルディアがゼノにそう言葉を掛けた。その言葉を受けたゼノは、ボーっとしたような顔でそう言葉を述べた。
「ねえシェルディア。悪いけど、冥を治してあげてくれない? このままだと多分、自然に冥が再生するのに1日くらいは掛かると思うから」
そして、ゼノは少し申し訳なさそうにシェルディアにそう頼んだ。闇人である冥は光の浄化以外で死ぬ事はない。つまり、バラバラに砕け散った状態でも冥はまだ生きているのだ。
(こいつ自分で冥を、仲間を粉々に壊したくせに・・・・・・)
ゼノの言葉を聞いた影人はゾッとした。たった今、自分の仲間を容赦なく壊したくせに、ゼノは何も感情を抱いてはいない。少し申し訳なさそうな様子は、ゼノがお願いしているシェルディアに対してのみだ。冥にではない。影人はそこに恐怖を覚えた。
「もう、私に頼むならそんなにバラバラにしなければいいのに」
「ごめん。手加減するなって事だからついね」
シェルディアはゼノという人物に慣れているためか、面倒くさそうに息を吐いただけだった。
「仕方ないわね、本当」
シェルディアはバラバラに砕け散った冥の元まで歩きしゃがんだ。そして、右手でその砕けたカケラの1つに触れ、自身の無限の生命力のエネルギーを流し込んだ。
すると、バラバラのカケラが寄り集まっていく。そして数秒後には――
「・・・・・・・・・ん?」
――冥は何事もなかったように元の姿に戻っていた。
「あ? 俺は・・・・ええと何が起きた? 確かゼノの兄貴に殴りかかって腕が崩れて、それで・・・・・・・・」
破壊されていた間の記憶はないのか、冥は不思議そうな顔を浮かべていた。そんな冥に状況を説明したのはシェルディアだった。
「お目覚めね冥。簡単に言うとあなたは負けたわ。ゼノに全身を破壊されてね。昔からゼノと何度も戦っているあなたなら、これでわかるでしょ」
「ああー、そういう事か・・・・・・・・」
シェルディアの言葉で全てを理解したのか、冥はガリガリと左手で頭を掻きながら残念そうな顔になった。
「教えてくれてありがとな、シェルディアの姉御。ゼノの兄貴に全身ぶっ壊されてこんなに早く復帰したって事は、治してくれたのも姉御だよな。それもありがとう」
「ふふっ、別にいいわ。気にしないでちょうだい」
シェルディアに素直に感謝の言葉を述べた冥。冥の言葉を受けたシェルディアは軽く笑った。冥のそういう素直に礼を述べるところは、シェルディアは気に入っていた。
「クソッ、やっぱゼノの兄貴は強えな。『破壊』の力を全身に纏えるのは知ってたが、昔よりも破壊する速度が段違いだったぜ。兄貴、やっぱまた強くなったんだな」
「冥もそう言うって事は、俺は強くなったんだろうとは思うよ。でも実感はやっぱりないなー」
悔しさと憧れが入り混じったような目を冥から向けられたゼノは、ポリポリと頬を掻きながらそう呟いた。
「ふぁ〜あ・・・・・じゃあ、戦いは終わったって事で俺は失礼するよ。ちょっと寝たいし。バイバイ」
「おう! 戦ってくれてありがとなゼノの兄貴。また戦おうぜ!」
ゼノはあくびをして影人たちにそう告げると、修練場の出口に向かって歩いて行った。冥はゼノに笑顔でそう言葉を送った。




